第3話 英雄譚

 俺の病院生活はおおよそ2~3か月と言ったところだろうか。その間に色々なことがあったようである。まず、佐藤だが、警察沙汰になったためにプロとの交渉以前の問題ということで白紙になり、それが奴の気をまた狂わせたのか不登校扱いだが実際は少年院まがいのところで監獄生活である。それを手助けしていた奴は、自ら学校や真帆に謝罪、しかし真帆や両親は一生許すことはないと門前払いの挙句に性犯罪だのというレッテルを自分で自分に張り付けていて、精神崩壊して自宅から出られないとのこと。ここまではまぁ普通である。俺はあまりこの手の事で英雄的な扱いは嫌だからと学校には内密にとした。つまり、この事件があるのを知っているのは学校と陸部の顧問と真帆の家族に俺のみである。警察にも色々と両親のコネなどを使い大きくはしていない。


 また、真帆は部活のある日もない日も必ず俺のいる病室に来てくれた。最初は俺の包帯巻きの腕を見るたびに泣いていたし、自分も被害者という事で恐怖におびえていたが、俺がまた守るからなどと励ましたりするうちに笑顔の方が増えてきた。3週もすると学校でこんなことがあった、先生がこれだ、あれだとずっとしゃべってくれた。陸部の顧問も週末などに休日返上で俺に面会にきた。まさか、今思うとあれが佐藤先生との出会いだな。最初は、ずっと謝罪に感謝の言葉であったが、だんだんと陸上の事や真帆の事、数学と話の幅は広がった。なんというかヒーローなのだろうか、俺は。真帆の明るい表情が戻ってきて、俺はそれが幸せだった。腕の代償にしてはおつりが来ると言っても過言ではなかった。



 そして、俺の病院生活は終わった。


 学校では、佐藤が消えたことに話題は持ち切りだったが、俺と真帆はその真実を知っているためになんとも思わない。俺の長期の離脱については、適当に理由をつけているのでまぁ触れる者はいなかった。真帆は今までずっと、佐藤に振られたと言って通してきたらしい。振ったと言えば、真帆にアンチ的な存在からの報復等があるかもと思い、振られたというらしい。そのために、真帆はフリーだということで男子たちはまた同盟やらファンクラブやら色々創設されていた。真帆はというと、病院の時とは打って変わって俺に対して、恥ずかしそうに接し、目線が合えばすぐに反らす。どうしたのだろうか、あのセリフに黒歴史を感じ始めていた俺にはすごくつらい時間だった。


 そして、冬も佳境も2月14日。


 俺はまぁ何もないと戒めて、無駄にテンションいや期待値の高い男子連中を避け、自分の机へと座る。思えば、真帆も今は隣ではない。


 ヒーロー気取りも終わりかなと思いながら、机に教科書を入れようとするが、すこし違和感がある。すると、ピンク色の手紙が入っていた。



 「蒼井 空君へ

 今日の放課後に体育館裏に来てください。伝えたいことがあります。」



 名前はないが、この字は見たことがある。




 放課後、そこに向かうとやはり、真帆がいた。


 「白石さん、この手紙って?」


 「うん、あのね私、蒼井君の事が好きになりました。私と付き合ってください。」



 女性からの告白であった。初めてだった。嬉しかった、想い続けてきた真帆からの告白を断るわけがない。


 「はい、喜んで。俺も大好きでした。」


 すると、真帆は涙目になりながら嬉しがっていた。


 「じゃあ、空って呼んでもいい?私は呼び捨てがいい」


 「いいよ、真帆。これからまたよろしくね。」


 互いが両想いということに俺も本当に嬉しかった。俺が言葉を言うと、真帆が抱き着いてきた。そして、少しその状態が続いた。



 「じゃあ、私これから部活だから、ぶ………部活終わるまで学校いる?」


 「今日はバイトないから、いられるよ」


 「じゃあ、一緒に帰ろ、そ……空」


 「うん、じゃあ待ってるね、真帆」





 ここから俺たちは付き合いだした。その日は帰り道で、本命チョコなるのものをいただき、手を繋ぎとドキドキが止まることはなかった。


 真帆曰く、俺があの事件以降、これまで以上にカッコよく見えたらしく、目線が合えば、自分の顔を見られるのが恥ずかしくなり、話そうとすると頭が真っ白になるために変な感じになったらしい。



 

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トップな彼女とエリア外な俺 越水ナナキ @koshimizu

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