第2話 君を守りたくて

 俺は地元を離れて、この地方では文武両道で知られていた洛北高校に入学した。学業がかなりウエイトを占めてはいるが、部活も活発で、行事もかなり多くそして大がかり。おまけに校風も自由でバイトなんてザラである。なんというか、運が良かったのか、入学式では総代を務めた。クラスでは、知り合いがいないため不安であったが、一週間もすると、それは杞憂であることに気が付いた。バイトがあるためにあまり遊びに行けない時もあるが、毎回必ず誘ってくれる友達もいて、毎日が新鮮であった。そして、俺の席の隣には、そう、白石真帆がいた。


 「白井真帆です。陸上部に入る予定です。よろしくお願いします。」


 そう言って、真帆はクラスで自己紹介をしていた。「よろしくね、蒼井君」、まだ俺が自己紹介する前だが、覚えてくれていたようだ。


 「あぁ、よろしく」


 これが、最初の出会いであった。


 そして、入学後の実力テストがあった。入学おめでとうの雰囲気から一気に高校生活の洗礼を受けた。国語、数学、英語の3教科であった。中学の知識で解けるように設定された、先生のオリジナルだがどれも難問である。テストが返されると、それはまるで、教室内が地獄となった。定期テストでは40点が赤点とされているが、実力テストでその縛りはない。しかし、教師の宣言する平均点は26~28であった。


 「蒼井君、すごい。数学78点って。私なんて30点だよ。」


 「たまたまだよ、それに白石さんだって平均超えてるでしょ。」


 そんなことを話していたな。まだ、付き合ってもいないし、隣人だから俺はさん付けで呼んでいた。



 2~3日して、成績上位者30名の名前が張り出された。


 「蒼井君、数学と英語と総合の三冠だよ!」


 「たまたまだよ、次は載らないかもしれないしさ」


 「そんなこと言って、でも国語は1組の人だね。蒼井君も2位で凄いけど」


 「あぁ~、あの人には敵わないよ。」


 「え、知ってるの?」


 「うん、同じ中学校だし、作文とかのコンクールは毎回最高賞だし、ここだけの話、小説家だからさ。」


 「え~」


 「秘密だよ。」


 「うん、分かった。蒼井君との秘密ね。」



彼女のその笑顔に俺は吸い込まれそうだった。彼女は学内では、特に男子には人気が高かった。異性、同性どちらにも平等に優しく、明るい性格でまさしくトップに君臨していた。美少女のため、告白もあるかと思いきや、可愛いとかきれいすぎると逆に今の状態(友達)を維持したい、壊したくないという男子独特の抑止力が働いているせいか、告白するものはいなかった。その後、休み時間や行事を通して、話したり、活動するうちに惹かれていった。テスト前になると、決まって深夜にライン電話が来るまでに仲良くなった。耳元で聞こえる、彼女の声、笑い声が俺は嬉しかった。これで、俺が彼氏だったらなと何度思ったことか。



 しかし、夏休み前のテストと夏休み後の実力テストの時には電話はなかった。そして、夏休み中のラインも2~3日空いてから返答がくるのが普通になっていた。






 夏休み明けの登校日、高校に続く坂道で俺は見たくないものを見た。


 「先輩~、電話出てくださいよ~何回電話したと思ってるんですか。また、ヤバい点数取っちゃうじゃないですか~。」



 「またって、入学の時、何点だったんだよ」



 「え、3……0点です。」


 「マジで、俺も物理で30点だったわ。」


 手をつなぎ、見たことが無いほどに嬉しそうに楽しそうに話している真帆の姿があった。男の方が前を見ていても、真帆はその横顔をずっと頬を少し赤く染めてみている。




 それが、俺には辛かった………。





 その日に行われた実力テストで俺は全て満点を取った。たまたまじゃない、朝に見た光景が何度も頭をよぎり、それを消そうとテスト用紙に書きなぐった。



 「蒼井君、また、今度は4冠、パーフェクトだよ。」


 と数日後に成績上位者の張り出しを見て、笑って話しかけてきた。前はその笑顔で俺は嬉しかった。でも、この笑顔ではない、あの人に見せていたものとは違うと思うと辛さが襲ってきた。


 「うん、そうだね」


 「え、元気なさそうだけど、大丈夫?」


 「あぁ、大丈夫だよ。ちょっとバイトし過ぎたかな」


 「体に気を付けてね!」


 「そうするよ」


 テスト前にバイトなんてない。あの事だなんて言えない。ただ、辛いんだ。




 その後も、二人の姿を見る日が続いた。



 「ねぇ、真帆って3年の佐藤先輩と付き合ってるんでしょ?」


 「え、あのサッカー部のイケメンの?」


 「そうなんでしょ、真帆?」


 「う、うん………」


 俺も比較的仲良くなったクラスの女子二人が、席替えで奇しくもまた隣になった真帆に話しかけていた。昼休みで俺は机に突っ伏していた。寝ていると考えた女子二人は続ける。


 「陸部とサッカー場って隣だよね?、もしかして?」


 「ねぇ、どっちから?」


 「えっと、先輩から告白されて………」


 「きゃぁ~」


 「初めてだったから、どう返事したらいいのか分からなくて、でもなんか夏休み中にデートしてたら良いなぁって思って………。」


 「真帆、顔真っ赤。」


 「もう、やめてよ………」



 聞きたくなかった。俺は寝ていた方が良かったようだ。


 俺はそいつを調べた。自分でも気持ち悪いと思ったが、諦めきれなくて………。佐藤 勇人(さとう ゆうと)サッカー部のエースでユースなどを経験しており、スカウトなどが来ており、プロのサッカークラブもラブコールをするほどらしい。イケメンで成績もよいだ。


 「これじゃ、無理だ。美男美女かよ。」


 校内など噂の限りをさがしたが、悪い印象を覚えるものはなかった。


 「ダッセェな、俺はなにやってるんだ。」



 そうこうと10月にある会話を耳にした。そう、佐藤先輩とやらが、放課後の階段で友人と話しているところだった。


 「勇人、彼女はどうだ?」


 「全然ヤらせてくれねぇ、キスしようとしても微妙な顔して渋るし。」


 「なんだよ、処女とか上玉過ぎるだろ。」


 「だから、今度、無理やりヤろうと思ってんだよ。」


 「マジかよ、お前プロ入り確定なんだろ、まずいだろ」


 「いいんだよ、プロ注目の選手に初めてを奪ってもらえるんだぞ、あっちからしたとんだサービスだろ。」


 「じゃあ、ムービー頼むぞ。」


 「俺が使い終わったら、ムービーじゃくてヤらせてやんよ。」


 「マジか、約束だからな」


 「あぁ、だから今度の部活終わりに………で………、頼むぞ」


 「分かった。」



 そして、真帆に関する会話は終わった。これだ、これがあいつの裏の姿だ。

そして、その日が来た。陸上部とサッカー部の部活が終わる、夜七時。俺はバイトを休ませてもらい、ずっと校庭、グラウンドのすぐそばのベンチにいた。片付けを終えた部員たちがグラウンド脇の部室棟から帰っていく。真帆もいた。


 「あれ、蒼井君どうしてここに?」


 制服に着替えているが、汗のために髪が濡れている。普段、見たことない部活終わりの真帆を見て、俺の彼女だったらと思った。


 「あぁ、うん。ちょっとリラックスできる場所探してたら、こんな時間になってね。」


 「ふーん。」


 リラックスなんて程遠い、ずっとこのために気を張っていたのだから。すると、真帆の携帯が鳴った。画面を見て、少し顔を赤くした。きっと、あいつからだ。


 「ごめん、用事できたから戻るね。」


 「あぁ、じゃあ俺も帰るね。」


 「明日、またね。」


 「あぁ」


 そして、俺は校門まで行き、帰るフリをする。後ろを見ると、真帆の姿はない。俺は部活棟までまた戻る。そして、陰から真帆の動向を見る。



 「先輩、なんですか?」


 「あぁ、ちょっとね。」


 「今、ちょっと汗臭くて恥ずかしいんですから~ うぅうううう」



 真帆の影から、この前話していた連れが来て、真帆の口をタオルでふさいだ。真帆は反応しきれていない。


 「へぇ、どれどれ?う~ん、確かに酸っぱいに匂いがするな」


 佐藤は真帆の首元の匂いを嗅ぎ、舐めていた。そして、


 「じゃあ、こっちはどうだろうな」


 真帆の制服のブラウスを隠していたナイフで切る。


 「スポブラかよもっとそそるのにしろよ、まぁ胸もあるな、じゃあ味を見ないと」


 「うぅううう~ん、う~ん。」


 真帆の抵抗するが、男二人に押さえつけられているので意味がない。


 「おい、タオルを外せ」


 「あ、分かった」


 「真帆、俺が何をしたいか分るよな?」


 「やめて、やめてください。」


 「うるせぇんだよ、いつまでたってもお前がヤらせてくんねぇからだろ。」


 「こんなことしたいわけじゃ~グスッ、やめてください。」


 「うるせぇんだよ、これ刺すぞ。感謝しろよ、もしかしたらプロサッカー選手の子供が出来るんだから」


 と持っていたナイフで脅しかけている。また、タオルを口に当てられ真帆は静かに泣くだけだった。


 「静かになったか、じゃあ、今度はこっちか。ほ~下は水色か、そそるなぁ。じゃあ、中身を~」


 「うぅうううう」


 「あんたら、そろそろやめてくんね?」


 佐藤が息を荒くして真帆のスカートを切り、下着が露わとなって、手を掛けたところで俺を出て行った。


 「なんだよ、てめぇ」


 「真帆さんの隣の席のものですよ。」


 「何言ってんだコイツ?、勇人、俺がおとなしくさせてくる。」


 「あ、蒼井君?」


 そして、連れが殴りかかってきた。飛んできた腕をよけつつ、そのまま背負い投げの要領で地面にたたき落とす。気絶したようだ。


 「あんたらの会話聞いてたし、今の現場も記録してるからさ」


 「んだとー、くそがー」



 そして、ナイフを持ち突っ込んでくる。ナイフのある腕を同じ要領で………


 「ばかかよ、そいつと同じ手は………グハっ」


 なんて、そんなフェイント見え見えだよ。右手のナイフに視線をやらせて、本当は左で殴るなんてさ。おかげで腹が甘いよ。


 「へぇ、まだ立てるんですね。じゃあ」


 俺は腹を抑える、視線を落とす奴の顔面を足を振り上げ蹴散らした。鈍い音をあげ、地面に落ちる。それを確認して、真帆に近づく。


 「白石さん、もう大丈夫だよ。」


 すると、真帆は俺に泣き崩れてきた。


 「ほら、もう大丈夫だから、泣かない、泣かない。」


 「なんで………蒼井君が………グスッ」


 「嫌な予感がしてね。」


 「クシュン……グスッ」


 「あぁ、ごめん、それじゃ寒いよね。これ着て」


 と俺は自分のブレザーを掛ける。


 「あんまり見ないで」


 と体を隠した。確かに、制服はぼろぼろで裸に近い形である。


そして、陸部の先生を呼び、警察だなんだと騒がしくなった。真帆は毛布をもらい包まっていた。俺は先生と警察に事情を話していた。佐藤たちが連行されそうなときに俺は油断していた。


 「クソ女が~」


 警官の腕を振り切り、真帆に向かってもう一つ持っていたナイフで襲い掛かる。真帆には誰もついていない。俺も反応が遅れた。


 「きゃあ~」


 



 不気味な音とともに大量の血が真帆の毛布に広がった。俺の真帆を庇った左腕から………貫通とまではいかなくて良かった。



 「あははは、ザマねぇな。」


 「このクソが~」



 俺は夢中で右腕を振り、佐藤ぶっ飛んだ。


 「なんで、なんで、蒼井君が、そこまで」


 真帆は震えながら、俺の血の滴る腕を見てさらに震える。それで俺は告白なのかは知らないが率直な気持ちを言った。


 「好きな人を守るのに理由なんていらないでしょ。ただそれだけ」








 そして、俺は入院生活を余儀された。まあ、真帆が見舞いに来たんだけどな………。















 



 

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