トップな彼女とエリア外な俺

越水ナナキ

出会い

第1話 珍しく

 カーストというのは確か、インドに伝わる世襲の階級制度であっただろうか。バラモン(僧)、クシャトリア(王族)、バイシャ(平民)、スードラ(奴隷)と身分差が今も残っているところがあるそうな。それを学校生活という場にあてはめたのがスクールカーストである。男子にもあるが、女子の方があると感じるのは、俺の偏見ではない様に思う。派閥、彼氏がどいつ、何部だからと色々な評価があるようだ。俺は、どこに位置しているのだろうか。せめて、バイシャが………と願うのは俺、蒼井 空(あおい そら)、高校2年生である。


 「あっ、いた。空、今日一緒に帰ろ。バイトないでしょ?」


 と部活だ、バイトだ、ゲーセンだと言う者は消え、俺しかいない桜が見え、少し肌寒い教室に声が響く。この学校のバラモス………もとい学校のアイドル、陸上部の2年生エースにして、俺の彼女である白石 真帆(しらいし まほ)の声である。


 「あれ、陸部はないのか?」


 「うん、顧問の佐藤先生が出張だからだって」


 佐藤先生とはこの学年の数学教師の一人で陸上部の顧問である。面白い授業に加え、陸上経験はないが最新のトレーニングや陸上関連の講習会に自腹で参加などとすごい先生である。20代の男性教師で人気は高い(女子に)、左手にある指輪に落胆した者もいたな………。


 「じゃあ、帰るか?」


 「うん!」


 と真帆は俺の腕に飛び込んできた。


 「学校内はまずいだろ、少し離れたところまで我慢してくれ。」


 「いいじゃん、空の彼女なんだから」


 「陸部のエースで学校のアイドルがこんな冴えない奴を彼氏にしているって噂になったら嫌だろ?」


 「そんなんどうでもいいじゃん」


 「多くの男子は君を狙っているんだ、それを俺は知っている。彼氏がいることを知って狂うやつもいれば、君に危害を与える奴もいるかもしれない………」


 「でも、空が”また”守ってくれるんでしょ。」


 「目立ちたくないんだよ、変な視線を浴びるのがさ~。」


 「も~、じゃあ学校内は我慢する」


 頬を膨らませ、不満があるようだがなんとか納得してくれた。そして、学校を後にする。幸い、誰にも見られてはいない。


 「ねぇねぇ、今日のお弁当どうだった?」


 「あぁ~、おいしかったよ。」


 「えぇ~それだけ、結構頑張ったんだよ~。朝4時からだよ。」


 「無理しなくていいよ。部活とかあるんだからさ。」


 「だって彼女っぽい事してみたくて………。」


 「はぁ~、真帆が彼女ってだけで俺は泣いて喜ぶからさ、まぁ無理しないで。」


 と俺は頭は彼女の頭を撫でる。真帆は赤くなっているようだ、唐突の俺の振る舞いに驚いたのだろうか。嬉しそうだと思っていると「髪型崩れるから」と離れたがまた俺に近づいた。


 「空、もういいでしょ、手?早く」


 「あぁ、ごめん」


 学校からまぁまぁ離れたため、俺たちは恋人繋ぎということをした。


 「今日、森の家に行こ!、ね?いいでしょ」


 「良いけど、そこでいいの?いつも見たく、カラオケとかラウ〇ンとかラーメンじゃくて」


 「うん、今日はカフェの気分だから。」


 「さいですか。」


 森の家というのは俺のバイト先である。高校入学を機に一人暮らしとなった俺に母親が昔の誼ということで紹介してくれたところである。シフトは基本的に毎日で週休2日制としている。まぁ、人は常連さんだけで楽だし、暇な時はカウンターで勉強しても良いとされている。それにテスト前は休ませてくれる。なんと、ホワイト。




 喫茶”森の家”は学校に最寄りの駅から二駅だがあまり同じ高校の人は来ない。内装や雰囲気が大人過ぎるからなと俺は勝手に解釈している。



 「やっぱり、雰囲気すごいよね!」


 「まぁ、他の建物と比べたらそう思うよな」


 この通りにはラーメン屋やスーパーがあり、活気のある所に分類されるがこの喫茶店だけは異彩を放っている。ダークブラウンを基調とした木目の映える佇まいに静かで且つコーヒーの香りが少しする店内、黒板を使ったメニューとThe 喫茶店である。それはまるでホントの大人のみが通う場所という雰囲気で………。


 「じゃあ、入ろ」


 「あぁ」


 威勢よく真帆がドアを開ける。カランコロンと耳心地よい音が店内に響く。


 「いらっしゃいませ、って空君じゃない?」


 と笑顔とともに驚きを見せる、黒いユニフォームを身にまとったこの喫茶店の美人店主こと三枝 琴葉(さえぐさ ことは)さんである。俺の母さんの親友で、俺を即座に雇ってくれた。


 「今日は休みでしょ?、ってその子はもしや彼女?」


 「はい!空の彼女の白石 真帆です。」


 俺の返答よりも先に真帆が答えた。


 「空君たら、またすごい美少女連れてきたのね。」


 「えぇ、俺には勿体ないくらいですよ。」


 「もう~、空君ったらイジり甲斐がないなぁ。」


 「いや、真帆が美少女ってのは事実なんですから」


 「空君は淡々としてるけど、真帆ちゃん?は大変みたいよ。」


 「えっ?」


 「うぅ~」


 真帆は両手で顔を覆っていた。少し見える頬は真っ赤であり、声にならない声をあげている。そんな真帆を連れ、琴葉さんの誘導でテーブル席につく。


 「空君、なににするの?」


 「じゃあ、琴葉さんの特製コーヒーと木の実のケーキをお願いします。」


 「真帆ちゃんは?」


 「こ、これを」


 「はい、カフェラテね。デートならちゃんと空君の彼女ってアピールしないとだめよ。これから少しすると、空君目当てのお客さんが来るから………ね」


 「えぇ?」


 「ほら、自信もってね」


 「琴葉さん、どうかしました?」


 「ううん、なんでもないよ。ちょっとアドバイスしただけ。」


 「はぁ」


 そして、琴葉さんはカウンターで準備をしており、店内の客は俺と真帆だけという状態になった。

 

 「あれから、もう大丈夫?」


 「うん、平気」


 「そう、なら良かった。」


 「空こそ、腕は?」


 「あぁ、傷跡はあるけど大丈夫だよ。痛みとか完全に消えてるし。」


 そう、俺は左腕、上腕二頭筋に大きめの傷がある。そう、俺と真帆の交際の始まりとなった、あの出来事によって刻まれた傷がある。



 「あれから、半年か……」

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