生きている話
どんな死に方がいい?
今日は機嫌が良い。
昨夜、またライブハウスに出演してきた。盛り上がってしまった。相変わらず観客は少ないが、歌って叫べればそんなことはどうでもいいともはや悟りの境地である。アマチュア作家の方も、PVがほとんどないからと言って、小説を書くことをやめたりはしないであろう。
ギターを一本背に負って、どこへなりとも旅に出る。板の上で自分の丸ごとを置いてきて、良かった日も悪かった日も、変わらず行きつけの店で飯を食い、帰る。
願わくば、こんな日の果てに死があればと思っている。
どうせ、そうは問屋が卸さぬのだが、思っておくだけならタダだ。
別にいつ死んだところで人間はいつでも死ぬのだから構わない。が、あんまりな理由というのもある。今回は、そんな体験について書きたい。
先日、誤ってカミソリで指先を切ってしまった。
ギターが弾けなくなるじゃないか、とイライラしながら傷口を流水で洗っている最中、急に、頭が寝起きのようにぼんやりしてきた。
どうしたのだろうと思っていると、四肢が氷のように冷たくなり、全身の体温が一気に下がり、心臓の鼓動が弱くなった。
ちょっとしたショック状態になってしまったようだ。
私の頭は、パニックである。
「ひょっとして、親指の腹をザクッと切ったくらいのことで死ぬのか」と。
それは流石に納得いかんぞ、と。
しかし、逝くのであればしょうがない、と。
だがしかし、しつこいようだが、それにしたってこれは少々以上に間抜けが過ぎるのではなかろうか、と。
とはいえ、まぁ、それも人生であろうか、と。
最終的には自身の阿呆な運命を一旦受け入れることとして、ソファに座り込み、ガーゼを当てた傷口を心臓より高い位置に上げて、しばし待つと、次第に回復していった。体温計は、私のそれを34.5度と表示していた。記念として、タブレットに撮影して保存してある。
かくして、その日は死ななかった。
その日もライブがあったので、痛む指をなんとか庇いつつ演奏した。MCのネタにもなり、結果として、『死ぬには良い日』といった風になったと思う。
あと、刃物の扱いには気を遣うようになった。
死を享受しているからといって、できれば避けたい死因はあるのだ。
また、できることならこういう日に、こういう形で死にたいという希望もある。
いくつかある。ここでは詳しく書かない。私はこの手紙に決して嘘を書かないが、秘密は二つ三つ隠している。
友よ。生きているあなたよ。どう死にたい。多くの場合それは叶わないが、考えるだけなら、そう、タダだ。
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