日本対私。

 長引く―――と打ち込んだ時点で、我がIMEは『不況』『景気低迷』など「へぇ旦那、続く言葉はこれでございやしょう。手前てめぇはよくわかっておるでしょう」とばかりに定型文を予測した。その通りだ。褒めて遣わすが少しあっちに行っていてくれ。


 かように長引く不況のせいか、年々減り続ける出生数のせいか、はたまた単なる盛者必衰のことわりか、我が母国はすっかり自信喪失国家と化してしまった。


 まるで、数年前の私を見ているかのようである。


 何をするにも怯えが先んじ、本当は思うまま、大胆かつ変化をもたらす行動がしたいのに、できない。


「本当はもっと上手くいくはずだった」と、情けない後悔の呪詛ばかり吐いて、何事も成せない自身を責め、それがさらなる自信喪失へと繋がる悪循環に陥る。


 そういう雰囲気をまとった人間にかける言葉は一つだ。


「まぁ、そう自分をいじめるでない」


 これである。


 敢えて口にしない、文字にしないだけでも、自意識はかなり変わるものだ。


 それはそうと、他国と引き比べてみて、ダメなものは厳然とダメなのであろうし、認めて受け入れ、改善せねばならんところもたくさんあるのだろうが、私はそんな天下国家を語りたくてこの日の手紙を書いているのではない。


 むしろ、国の在りさま、その無様さに引っ張られてしまう、いってしまえば夜郎自大やろうじだいな同質化を戒めようとしている。


 あなたはあなたであるからして、という基本的な部分に立ち返るべきだ。


 しょせん矮小かつ小賢しいお猿でしかない人間の、その一匹である私やあなたがダメな奴であることの、何がそんなに辛く苦しいのかという話である。


 私一匹分のままならなさや、俗呆ぞくぼけた怠惰な阿呆であることなど、それこそ、矮小な話。砂利じゃりの一粒が粗悪であることに、気を留める者はいない。


 そんなわけで、私は私のろくでなしを受け入れた次第である。


 あなたもそうせよ、とは申し述べないが、なにやら己が立派な何者かにならねばならんと、そう考えているのだとしたら、そんな必要はない。


 人類など、この天地創造開闢かいびゃく以来、粗忽そこつ者しか生まれてきておらん。


 ちらりと外を眺めてみられよ。


 “人種”なる、どこまでも些末な見た目の違いや、“神”なる生命起源を司るエネルギーの二次創作キャラクターを巡る解釈違いが原因で、果てしなく殺し合っている。


 溜息と大あくびを禁じ得ない。


 何が悲しくて食えたものではない人間など殺さねばならんのか。ヒトに殺すほどの価値などあるものかよ。殺人など、屠殺未満である(が何故かすんなりと変換できない。これもまた、面倒な話だ)。


 アホか、我らは。


 アホなのだろう、我らは。


 だから、心配なさるな、友よ。


 我らは人類史の過去現在未来に至るまでと同じく、果てしなく愚かなままだ。


 自分に自信がないと思っておられるなら、私から申し上げよう。


 それは、勘違いだ。


 失うような自信の源など、端から無い。


 人間に“肯定”できる要素など、何一つない。


 少し、安心して悩めるようになっていただければ幸いである。

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