嘘を吐いてはいけない

 友よ、ゆめゆめ、嘘はかれるな。


 嘘を吐いていると、その嘘が自分に取って代わり、身体と生活を支配するようになる。


 嘘で他者を騙そうとするとき、嘘もまた、あなた自身を騙そうと画策しているのだ。


 うむ、今日書きたいことはもうすべて書いてしまった。


 なので、ここから下は蛇足である。読みたい者だけが読めばいい。


 この手紙は、このサイトで書き始める以前より、自分のブログ内でのいちカテゴリとして連載し続けてきた。


 最初の方など見ると「こやつは本当に同一人物か」と思う。


 自分の考えがまとまっていないのではない。


 文章力がないのとも違う。


 機械仕掛けの人形が、何とか人としての体裁を整えて書いている。


 そのように読めてしまう。


 これは、私が長年自分自身に嘘を吐き続けていたのが発端だ。


 そもそも私は本来的に空虚な人間であって、「生きたい」とか「死にたい」とか、そのような実存的なことに悩む類の心性は備えていない。


 雨が降れば黙って濡れそぼち、風が吹けばふらりと流され、雪にも夏の暑さにも堪え性なく負け続け、「こんな人間にだけはなりたくねぇな」と宮沢賢治に草葉の陰から吐き捨てられる、そういうヒトである。


 だが、空虚であるが故に、共に暮らし、席を並べる他人の言葉や行いに対し、無批判な同化を繰り返してしまった。


 その過程でついうっかり「生きていたい」などと大嘘を吐いてしまった。


 本音では命など何の価値もないと思っていながら、もう片方の手で、意味や価値を重んじる閉鎖環境の論理に迎合してしまったのだ。


 そのことの重大さを、もっとよく知っておくべきであった。


 周りの人間と適当に話を合わせていたら、いつの間にか自分の身体が嘘に塗れてしまったのだ。


 おかげで私は、自分がバラバラに引き裂かれ、心身のバランスをことごとく崩し、すっかり社会不適合の廃人のようになってしまった。


 回復は、未だ途上だ。


 あのとき吐いてしまった嘘は、私自身に成り代わり、私の形をしただけの私ではないものとして、周りの人々に認識されてしまっている。


 この恐怖というか、気持ちの悪さは、ピンとくる人ではないと分からぬ話かもしれない。どうせ蛇足であるので、分かりにくさなど気にしないで書いているが。


 もう少し、嘘の弊害を挙げて行こう。


 私はその場しのぎで生き続けてきた人間だ。


 その場しのぎの嘘、誤魔化し。誰かが言った言葉を受け、二束三文で売り飛ばし、当座の糊口をしのぐ。


 本音など語ったところで、碌なことにはならないし、誰かに怒られたり、なじられたりするぞ、と自分を律してきた。


 だが、それは間違いである。


 適応的な人間の振りなど続けていたら、本当の不適応になってしまう。


 空虚なのに空虚じゃないふりなどしたところで、その嘘の自分と本来の自分が殺し合いを始め、一歩も動けなくなってしまう。


 たとえその場の空気が白けて酷い雰囲気になろうとも、自分の本当のところを語っていなければ、もっと酷いことになる。


 先ほど、語る、とタイプして、騙る、と予測変換された。


 そういうことだ、と、我が愛機からも言われているようだ。


 嘘は吐いてはいけない。誰かの為ではない。徹頭徹尾、自分の為に。

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