いつだって、あなただけが辛い

 先日、エアコンを買い換えた。家電は増税直後の方が安いというのは本当であった。


 業者に交換作業をしていただく中で、ドレンホースに虫が詰まっていたことが明らかとなった。いったい、どれほど前からいたのだろう。今夏の間か、もしや数年前からかも知れぬ。何せ、十年も稼働し続けてくれたので、多少水が漏れたり、動作が不安定であったりすることに疑問を抱かなかった。


 虫さえ除けていれば、もう少しは長くもっただろうか。いや、十年である。十分である。


 これから、一段と寒い日が訪れる。あなたの部屋は、暖かくできる用意があるだろうか。電気代も上がっている。一瞬の出費が、月々のそれを抑えることになる。


 このような場末の文章に出くわしたことも多生の縁と思って、どうか迫りくる冬を凌ぐべく、決断して頂きたく思う。


 我慢は、神経に詰まった虫のようなものだ。短期的には美徳であるが、長期的には悪徳といって差し支えない。


 我慢は、あなたから率直な感受性を奪い続けている。


 身に降り注ぐ寒さを耐え、慣れたとして、その凍え、震えはまた別の異なった毒として心身に溜め込まれていくだろう。


「私だけが辛い」というのを躊躇ためらうべきではない。


 その言葉は、いつでも九割方、正しい。何故なら、どのような痛みや苦しみも、あなたがあなたであるが故に感じるものだからだ。


 残りの一割は、あなただけが感じられる僅かな楽しみと喜びが担保している。私には探し得ぬ、あなただけのものである。


 今回は、やや乱暴で強引な筆運びであったかもしれない。語りたいことは万とあり、それを書き出すだけの語彙を持たぬ身であることを承知いただきたい。


 誰もが孤独である。


 誰もが、一つの心で、一つの人生を歩むことしかできぬ。


 我らは皆、生誕という罪状を背負っている。人生なる牢獄にて、苦しみと悲しみが常に牢名主の地位を競い合っている。老いや病と呼ばれる獄卒が、やがて死を処すその日まで、煉獄は続くのである。


 繰り返す。


 その辛さは、あなただけのものである。

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