学校について

 これを書いている今は九月の初旬。残暑はあるが、夜は扇風機でしのげる程度に和らいできたと感じる。あなたの街はどうであろうか。私の知人は暑さが大敵で、夏になると抑うつ気分となり、ひきこもる。冬の寒さや夏の暑さに負けることは恥ずべきことではない。人は雨にも風にも負けるものだ。負けていいものだ。


 最近は二学期制を取る学校も増えたし、夏休みを短くとる学校もあるが、ちょうどいい頃合いとして、学校に通うことについて書いてみようと思う。


 結論から述べる。


 学校には、あまり通わない方が良い。


 何故なら、私がこうして書く手紙を受け取って読んでくださるような学生は、その時点で、だいぶ、追い詰められているのではないかと邪推するからだ。


 そうではないのなら幸いだ。が、明日も授業を受けねばならないことに憂鬱が襲うのなら―――いや、そうではないか。


 授業など、漫然と席に座って適当に受けていれば勝手に終わってくれるものだ。少なくとも、私はそうだった。


 常に私を苦しめるのは、人であった。


 これは仕方ない。特に、学級制を採用する学校で、人は大変に愚かな存在になり下がる。


 考えてもみて欲しい。


 一つの狭い教室に、三十人弱の人間が、長い長い時間を共に過ごす。これほどストレスフルな環境もない。


 電車や路線バスを想像してみればいい。


 偶然、同じ車両を共にした人間同士が、たまたま意気投合することもあるだろう。だが、基本的には、目的の駅や停留所に下車するまで、互いに干渉せず過ごすというのが、一般的な処世だ。


 学級はそれを許さない。「みんな仲良くしなさい」とくる。


 正気の沙汰ではないと思う。


 我々は別々の人格、趣味嗜好、感性と心を持っている。あまりベタベタと馴れ合うものではない。


 これはマナーというものだ。


 人がたくさんいる電車やバスでは、あまり大きな声で話したり、不作法に動き回ったりしてはいけない。静かに落ち着いて、波風を立てぬよう過ごすのだ。それはそれでストレスフルではある。それはお互い様だし、結局、そうやって少しずつの我慢を分け合うことが、少しずつの快適さを分け合うことに繋がる。人の世はそうやって運用されている。


 だがしかし、学校という場はすこぶるうるさい。


 それもこれも、「みんなで友達になれ」なる狂気じみた指令のせいだ。


 ただでさえ未発達な子供が寄り集まり、人種の坩堝るつぼと化した場を統治するには、そうした方が都合が良いのだろうとは思う。


 それにしても、いささか以上に指示が乱暴すぎる。


 友人とは、同じ性質を持った人間同士がなる関係だ。性質は趣味嗜好や性格に置き換えてもいい。もっと単純にいえば、気が合う者同士である。


 何十人という人間が友人になれる同質性など存在しない。逆に、四人か五人でさえ、気の合わない、気に食わない人間というのは出てくる。


 その当たり前な心の動きに蓋をして、学級に『仲良し』や『同質性』を求めれば、その枠から零れ落ちるはぐれ者が必ず生み出される。


 いじめ学級の一丁上がりである。そこまで行かずとも、皆が少しずつ快と不快を分け合う公共交通機関的なマナーは失われ、大多数の快適さのために、少数の人間が多大な居心地の悪さを背負う歪な社会が出来上がる。


 長々と私見を開陳したが、あなたはどうだろうか。


 あなたにとって、そこが人間関係なるものに苦しめられる場であるならば、そのような所に通う必要はない。


 ない、とはいえ、ほかに行く場所も思いつかないかもしれない。どこかに行かなければならないなどという話でもないのだが、せっかく学校をサボるのであれば、少しくらい楽しみを探すのも良いだろう。


 路上ライブなどどうだろうか。


 完全に私の経験上の話でしかないが、金もそんなにかからないし、意外と刺激的な日々だ。


 近場であれば私がご案内しよう。なにしろ、私とあなたは、自殺という同質なものを持つ友なのだから。


 ―――勝手に友達にするなと?そう言ってくれるな友よ。


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