ある自殺志願者の身体的困難

 大上段に「自傷も自虐も厳禁だ」と、書いてしまった手前、ではどうすればいいのか、を書かねばならない。


 なので、まず、自分の身体的困難と、その対応について書く。


 今これを座して書く私は、両手と眼球以外に両足の膝を左右に動かし続けている。


 ということを書いてから気付く。まったくの無意識なのである。


 私は、一見静止していても、常に身体の一部が忙しなく動き続けている。貧乏揺すりに気付いて止めたところで今度は手が動く。手が止まれば首が。さらに酷くなると、上半身全体が上下動を始める。しかし心はとてもリラックスしている。難儀なものだ。


 この、身体の忙しない動き、いってしまえば痙攣けいれんは、発達障害の者によくある特徴であるそうだ。


 そういえば、心療内科の待合室にいた五歳くらいの女の子の落ち着きの無さといいうのが、まったく天晴あっぱれなものだったことを思い出す。


 じっと座っている時間はどんなに長くても八秒程度。素人目に見ても何らかの症状だと思ったし、私を診てくれたベテラン医師(彼は発達障害の専門家でもあった)の手にかかれば、診察室のドアを開けた瞬間、いや、ドアを開ける音、どころか、部屋にやってくる足音を聞いただけで診断を下せそうな(そんなことは絶対にしないであろうが)見事な多動ぶりであった。


 彼女に比べれば、私の症状はずっと軽い。じっとしていろと言われればできるし、かしこまった式典の席であれば不動でいられる。貧乏揺すりは、その方が楽だからやっているのである。身体を安静にしようと痙攣しているのである。


 逆に静止した身体は絶え間ない緊張状態に置かれているということでもある。とはいえ、これも程度としては軽い。

 

 柔軟をどれだけやっても身体は固いが、運動ができないほどではない。


 起き抜けに足を攣ることも頻度としては多くない。


 呼吸は浅く、ため息が多くなる傾向にあるが、肺活量に問題はない。


 また、医師のウェブサイトで、そういった人間は胃腸や喉や鼻が弱い傾向にあるという文章を読んだ。


 内臓に異常はないが、喉は弱い。音楽活動の真似事、しかもボーカルをやっている人間として致命的な欠点だが、恐らく断続的な緊張状態のせいで喉がすぐに乾き、粘膜が弱くなってしまうのが原因であろうと思う。後述のトレーニングと共に、のど飴、粉末の龍角散、ハーブティーや、蜂蜜を溶かして飲んだりしている。


 同じく呼吸の浅さも腹式呼吸を阻害する問題だが、両方ともまずまずの改善傾向にはある。どうやったのかを詳しく書くこともできるが、それよりは近場でボイストレーニングを受けに行くのが早いと思われる。特効の薬品を探し当てたわけでもなく、ただひたすらな訓練の賜物でしかないのだ。そしてそれは、知ったかぶりの半可通はんかつうより専門家を頼るのが一番の近道である。


 軽い鼻炎も患っている。季節・気候に関係なく、ふとした拍子に鼻水が止まらくなったり、鼻がむくんで詰まったり、また酷く乾いて血が滲んでいたり。


 鼻呼吸は、頭を落ち着けるのに必要だ。イメージとしては、鼻から吸った酸素で脳を冷やすような。それが疎外されては、心身に不必要な焦りが生まれてしまう。そして、生来の気質である緊張状態に拍車がかかってしまう。


 どうにも鼻炎は治しようがないようなので、口に絆創膏を貼って寝たり、塩水で鼻うがいをしたりといった、ちょっとした荒療治を敢行した。効果があったかは不明である。おとなしく市販薬でも買って飲んでいれば良かったかもしれない。


 一つ、てきめんであったのが、長い時間をかけ深く息を吐いて、その上で息を十秒止めたのちに、鼻で息を吸うというものだ。自然と呼吸も深くなり、鼻の通りも良くなる。


 こうやって今もずっと、身体を操作する術を身に着け続けている。

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