Fight of blood

@KANAMEGINTAROU

第一話 血の目覚めpart1~転機~

 あぁ……またこの夢か。

 気がつくと俺はまたあの場所にいた。何度も夢でみた謎の場所だ。だが俺はここをこの場所を知らない。

 空は黒い雲で覆われており少々暗い。周りは焦げ臭い嫌な臭いが充満して長時間居たら気分が悪くなりそうだ。所々で炎と黒煙が上がっており家々は燃え崩れ、どこかで「助けて」と、この世の終わりのような甲高い女性の悲鳴が聞こえる。そして、そこらかしこで真っ黒な焼死体が転がっている。この場所はわかりやすく簡潔に例えるなら『地獄』だ。

「相変わらずあんたらは死んでるのか」

 足元を見るとそこには男女の遺体があった。転がっている焼死体に比べればとても綺麗な死体だ。綺麗すぎて生きているように見えて少し怖い。

 両方にこりと笑っている。両方右胸に何かで抉られた穴が空いてある。目立っている傷はこの一点だけ。人体にあまり詳しくない俺でもこれが死因だとわかるほどの傷だ。こんなグロテスクなものを見たら普通は泡吹いて白目むいて気絶するのが普通だろう。最初はそうだったが、ずっと夢に出てくるので慣れてしまった。

 俺はこの人達がどこの誰か知らない。

「ほんと誰だ、この人?」

 俺は二人の遺体をじっと見た。

 しかし死人に口無しという言葉通り何も喋らない。

「まぁ喋ったらビビるけどな……」

 男性は結構高身長で多分余裕で180を越えているだろう。それに何よりイケメンだ。アイドル系の可愛い顔ではなく、渋い俳優系のザ・イケメン。髪も短めでスタイリッシュな感じでさらにイケメンさが増している。

 女性は男性に比べれば低いが一般的には高いと言われる程の身の高さだ。長い睫毛、整った顔。長い白髪。長く白い肌がスカートの裾から露出している。スタイルもグラビアアイドルに似ている。

「美男美女ペアってこういう事か……」

 俺は取り敢えず手を合わせた。いくら夢でも人が死んでいるんだそれぐらいはしないと。バチが当たったら嫌だし。

 俺が手を合わせていると後ろからガラガラの低い声が、

「悲しいか少年よ」

 そう言った。振り向くとそこには右手を失った爺さんが俺を見て立っていた。服の右側は血まみれだが血が固まっているのを見ると結構前に切られて血が止まったと思われる。

「あんたもかよ……」

 この爺さんも夢に出てくる。でも俺はこの爺さんを知らない。名前をいつも問うが何も答えない。

「あんた誰だ?」

 俺は爺さんに毎度お馴染みの質問を投げ掛けるが──無視というのか気づいていないというのか一向に返事をしない。やっぱり夢の内容は同じなのか?

「夢なら色々想像して変えれるのが醍醐味じゃねーのかよ……」

 俺がそう言うと、

「諦めるな少年よ」

 爺さんは全く今の話に関係の無い言葉を言い歩き出した。炎々燃える炎に向かって。

 以前に見た夢なら俺はなにもせず、ただ爺さんが炎の中に入る。だが俺は何を思ったのか爺さんの手を掴もうとした。ほんの出来心だ。だが手は掴めず幽霊みたいにすり抜けた。そしてそのまま爺さんは炎々と燃える炎の中に入っていった。

 そして爺さんは炎の中を歩きながら言った。

「強く生きろ。未来の──」

 目の前が真っ黒になった。ここで夢は毎回終わる。この言葉を最後まで聞けず視界はテレビの電源を切ったように真っ暗なった。

 さて、夢も終わったし寝るか。俺は意識を薄めていった。

◆         ◆         ◆

「虎端さーん、虎端さーん」

 寝ようとした瞬間俺は体を思いっきり揺さぶられ無理やり起こされた。というかめっちゃ揺さぶってくるんだけど。うぷ、そろそろ気持ち悪い……。

「起きてるよ……」

 俺は弱々しい声で言った。すると揺れは収まった。俺は体を起こし横を見ると、

「おはよ、虎端さん」

 妹の未知が半袖のパジャマ姿でニコニコしていた。俺は「おう」と言い未知の今日の髪型をチェックした後綺麗な茶髪が生えている頭をポンポンと優しく叩いた。今日は家だからポニーテールか……。

 相変わらず髪の毛サラサラだな。未知は触られ嬉しかったのか頭を俺の胸元にグリグリと押し当ててくる。俺は優しく頭を撫でた。するとシャンプーの甘い香りが俺の鼻孔をくすぐった。

 良い臭いがするな……。

「ちょっとー。朝から濃厚な兄妹イチャイチャするのも良いけど虎端、あんた今日補充あったんじゃないの?」

 俺の部屋の入り口から頭だけを見せ叔母の輝美がにやけながら言った。

「あ、そうだった」

 俺はひっつき虫みたいに体にくっつく未知を優しく剥がしリビングへ移動した。移動途中の廊下に昨日干した半袖の制服が吊られていたので俺はそれを掴み廊下で歩きながら着替えた。後ろにはどこか不機嫌な未知が金魚のふんみたいに後ろを付いてきた。

 パジャマのズボンを脱ぎ捨ててリビングに吊ってある夏用ズボンを履き朝飯を食べるために椅子に座った。

 俺の名前は二階堂虎端(にかいどうこは)。17の高校二年生。髪の色は黒で目の色も黒。特に何もない一般人だ。たまにさっきみたいな夢を見る奴だ。

 そんで、俺の事を「虎端さん」と呼ぶのはさっき紹介した通り俺の妹の二階堂未知(にかいどうみち)。歳は俺より一つ下。瞳は大きくまた長時間見つめていると吸い込まれそうなほど綺麗な瞳をしている。顔も整っており美人という言葉が似合う少女だ。髪は綺麗な茶色で後ろにはまとめてポニーテールにしたり、ロングにしたりと色々できるほど長い。とても細く今にも折れてしまいそうな腕。その腕の先にはとても綺麗な手。細くスラッと伸びた脚。大人の女性のようなエロさはまだ感じられないが、健康な少女感が出ていて逆にエロい。そして引き締まったウエスト。だが少ししか胸がなく女というにはまだ未熟な存在だ。

 女に未熟。つまり妹にピッタリな存在だと俺は思う。あと問題点は極度のブラコンと天然の思考だけ。それを除けば成績優秀でスポーツ万能。家事全般完璧にこなせる。さらに飲み込みや人の癖を見つけるのが早く2か月前に教えた格ゲーも2年間やっている俺の癖を突いてたまに負けそうになったこともあるし、俺が趣味で始めた将棋も今では未知には勝てない。

 と、心の中で未知のセールスポイントを言っているうちに椅子に座りながら靴下を履き、新聞のテレビ内容欄読んでいた。今日は……特に見たいのはないな。

「はい、どうぞ虎端さん」

 引き続きテレビ欄を見ていると未知がトーストと目玉焼きが乗った白い皿とアイスコーヒーが入っているガラスジョッキをキッチンから持ってきてくれた。

「ありがと」

 お礼を言うと「えへへ……」と言いグニャグニャ体を揺らす未知。おいおい、飯持ったままグニャグニャするなよ……。

 未知は10秒ほどグニャグニャした後テーブルに朝飯を置いてくれた。俺は手を合わせ「いただきます」と言った後急いで朝飯を食べた。

「行ってくるねー」

 俺が食べ終わったと同じぐらいに叔母の輝美が駆け足で仕事に行った。

 二階堂輝美。俺と未知の叔母に当たる人だ。昔に両親は二人で旅行中に事故に遭い亡くなったらしくそれを輝美が引き取った。職業は俺と未知の通う高校の国語教師。年齢は31と30の壁を少し通りすぎた女性だ。明るく話しやすい性格なので結構生徒に人気のある教師だ。合コンに参加するらしいが毎回毎回酒だけ飲んで帰ってきては「あの男がね──」と未知に愚痴を垂れているらしい。

 俺は皿とジョッキをピカピカの銀色シンクに置いた後、学校へ持っていく鞄を自室に取りに行った。補充用の教科書をリュックに詰めながら、

 「今日から夏休みっていうのに俺の夏休みはどこだ?」

 そうため息混じりに言った。あれ、数字Ⅱの教科書どこ行った?

 今日は7月28日。俺の通う高校は昨日終業式があり今日から夏休みに突入するはずだった。だが通常授業をサボりすぎた俺は出席日数が足りないらしく補充に出なければ3年生ではなく2,4年生になってしまうと昨日担任に衝撃の告白をされた。

 自業自得ですね、はい……。

 探していた数Ⅱの教科書が本棚に突き刺さっているのを見つけ俺は引っ張った。

「ん?なんか……固いな……」

 引っ張るがぎゅうぎゅうに詰まっているのかピクリともしない。

「虎端さーん!もう学校行かないとダメだよー!」

 未知が急かす。引っ張っても抜けねーし、自業自得だけど夏休みなのに学校行かないと行けねーし……あぁ!イライラする!

「くっそ!ぬーけーろー!」

 もうこの際本棚が倒れても良いから抜けろ!いつまでも引っ張っても終わらない気がするので一気に引っ張ろうと決心し力を込める。

「ふっ!」

 すっと数Ⅱの教科書が抜ける。

「よし……!抜けたっ!ああああああ↑!」

 どんがらがっしゃーん!アニメっぽい騒音と共に数Ⅱの教科書が並んでいた列に挟まっていた本が勢いよく落ちる。俺は本の下に埋もれてしまう。痛い……重い……。ドタドタと騒がしく走る音が聞こえる。

「虎端さん!? ど、どうしたの!?」

 未知が俺の部屋に入ってくる。

「大丈夫……。心配かけてごめんな今片付けるから」

 上に乗っかる本を体を揺らしながらどかそうと試みる。すると未知も本を退かすのを手伝ってくれた。

「大丈夫だよ虎端さん。私がどかしてあげる」

「おぉ……ありがとう」

 俺は右腕に力を入れて本から脱出させ右手で未知の頬に触れた。俺は決してシスコンではない。これは別に「妹に触りたーい」と思っているわけではなく妹とのスキンシップだ。

「もう……虎端さん……」

 ここは普通頬を触れられた妹は兄を「いやーん!お兄ちゃんのエッチー!(殴り」という場面になるはずだ。だがブラコン(俺が思っているだけ)の未知は違う。

 手が頬に触れた瞬間マッチを擦り一瞬でボッと火が付くように、未知の顔が真っ赤に発火し俺の手をぎゅっと両手で握り放さない。それどころかどんどん未知小さく潤いを持った可愛い唇へ近づいていく。

「おい、未知!? 気を早まるな! 俺たち兄妹なんだぞ! 妹が兄の手にキスするとかおかしいぞ!」

 未知は言うことを聞かない。それどころかさらに唇が近づく。

「はぁ……はぁ……ダメなのに……どうしても虎端さんの兄の手にキスをしたくて……あぁ……」

 未知は色っぽい声を出す。どうやらキスをするか迷っているようだが徐々に近づく俺の手を見ると今一説得力がない。俺は右腕を全力で未知の手から引っこ抜こうと頑張るがピクリともしない。どんだけ力が強いんだお前!?

 チュッ。右手の甲に柔らかい感触がした。遅かったか……。

「ふあああぁぁぁー……」

 スルスルと未知が崩れ落ちる。いやらしく例えるなら『ヘヴン状態』とでも名づけようか。そんな事より俺の右腕は自由になった。そして体を揺らし体に乗った本をどかし数Ⅱの教科書をリュックに詰め玄関へ歩いた。

 ドタドタと後ろから走ってくる音が近づいてくる。

「虎端さん虎端さん!」

 顔を真っ赤にした未知だった。俺は靴を履きながら聞いた。

「どうした未知? また俺にキスしに来たのか?」

「ち、違うよ! 忘れてるよパーカー」

腕をブンブン振り未知は否定しながら俺にパーカーを渡した。あぶ、危ないってパーカー振り回すな!

「さんきゅ」

 俺は未知から受け取りそう言った。お、洗ってくれてる。

「どういたしまして」

 未知はお礼を言われて嬉しそうな様子を見せた。

 俺はパーカーを制服の上から着てフードを被った。その上からリュックを背負い学校に行く準備は完璧だ。

「行ってきます」

 玄関の扉を開け外に出た。蝉が忙しなく鳴いている。

「行ってらっしゃい」

 多少蝉の鳴き声に掻き消されていたが未知の「行ってらっしゃい」が聞こえた。

「結構未知せいで時間取られたな……」

 家から10分ほど歩いたところにある『増川公園前』と言う名前のバス停へ走って、少しだけ待った後お目当てのバスが来た。走らなくても良かったかも……。

 後ろの入り口の目の前にある椅子に流れるように座った。毎朝恒例行事のゲームログインをするためスマホを開いた。

 3分ほど走ると次のバス停に停まった。このバス停は『増桜駅前』という名の結構大きな駅付近にあるので利用客が多い。ぞろぞろと会社に向かうサラリーマンやOLさんが入ってくる。みんな顔がこの世の終わりのような顔をしている。どんだけ会社嫌いなんだよ……。まあ俺も同じようなぐらい学校嫌いだけどな。

 バスは『増桜駅前』から出発した。少しだけ車内は揺れた。

「見て、あの子こんな暑いのにパーカー着てるわよ」

「見てるだけで暑いわねぇー」

 さっきの『増桜駅前』で乗り込んできた登山姿のおば様達が俺をディスっているのが聞こえた。まあ夏にパーカーを着ている人を見たら俺も同じ事を思うだろう。だが思うと口にするは全く違う。だから俺は心の中でおば様達に「お腹痛くなれ」と呪った。ここで「死んでしまえ」とか思って本当に死んだら嫌だしな。

 無論俺がこのくそ暑い夏にパーカーを着るには二つの理由がある。パーカーが格好いいからではない。

 俺は昔から太陽が放つ日光に弱い。多分そういう体質だろう。帽子が無く直射日光を長時間浴びれば貧血のようになって倒れてしまう。長袖じゃなければ日光が当たった肌の部分が赤く火傷みたいにヒリヒリして痛くなるので、帽子+長袖=フード付きパーカーという答えになった。

『次は仁摩高校前』

 女声のアナウンスがそう言った瞬間横にある『次の降ります』ボタンを押した。俺は席を降りサラリーマン達の間をくぐり抜け降車口にある運賃箱にお金を入れ降りた。降車口を降りるとバスはさっさと発車した。目の前には仁摩高等学校と書かれた表札が飾ってある校門。それを構える俺の通う高校『県立仁摩高等学校』。仁摩高校は色んな学科が存在する学校で有名だ。また勉強や部活設備も整っておりそれも有名な理由の一つでもある。確かサッカー用のグラウンドが二個あるとか何とか。

「あちぃー……」

 家からバス停までは木々の影で涼しく歩き、バスの車内もクーラーがガンガンかかっており涼しく快適に過ごせた。

 だが校門から下足室までの長い距離を歩かなければならない。何が嫌かというとこの長い距離に木などの日光を遮るものが無いためかなり暑い。

「夏なんて来なくて良いんだよー」

 夏に対しての悪口を言うが暑さは変わらない。外で活動をする部活の元気な声が聞こえる。もう聞いているだけで暑い。さっきまで冷房が効いたところにいたのでさらに暑く感じる。もうぶっ倒れそう……。

 俺はやっとの思いで下足室にたどり着き靴をスリッパに履き替え昇降口を上り2階にある補充授業を受ける教室へ入った。

 「あぁ……涼しい」

 入った瞬間。いや、扉を開けた瞬間吹き抜ける冷気。キンキンに冷えてやがる!

 俺は教室に入り自分がどこに座るかを書いてある紙を見た後自分の席に座り涼んだ。

 周りを見るが誰もいない。まあ成績が良いが売りの高校だしな。自分の所しか見てないが紙には俺ともう一人の名前が書かれていた気がする。

「というか、もう一人いても俺の事知ってるのか?」

 今さらだが気づいた。俺はあまり人とは喋らない。そのせいでクラスでは孤立する。孤立するから喋らない。だからで孤立して──ほら悪循環の完成だ。

 この前なんて同じクラスの奴に、

「ねぇ君、何年何組?」

 と真剣な顔で言われた。まあネタだろう……。ネタだよね? ネタ……。考えるの止めよう。

 そんな下らない事を考えているとガラガラと教室の扉が開く。俺は先生だと予想しリュックに入っている教科書を引っ張りだし机にドンッと落として置いた。準備万端どこからでも来い。

「お、二階堂」

 その声は先生ではなく俺が知っているクラスの女子だった。もう一人の奴ってお前だったのか……。

 その女子の名は冴原遥(さいはらはるか)。男子からはかなりの人気を誇るスクールカーストの高い女子だ。ハーフの幼顔で、金色のツインテール。髪質からかなり良いシャンプーなどを使っていると伺える。身長は159ほどの低身長。だがそんな身の丈に合わないほどの胸が彼女の人気の理由だ。制服に押さえられてちゃんとしたサイズがわからないが輝美師匠の元で修行した乳(ちち)鑑定士の俺的にこいつのサイズはHぐらいはある。

 巨乳だな(小並感)。

 彼女の事を一言で言うなら『金髪ロリ巨乳ビッチ』とでも呼ぼう。なんか男子高校生とかが好きそうなエロ同人誌のタグっぽいな。家に帰ったら探そ。

 ビッチと言っていないのに何でビッチ呼ばわりなんだ?と思ったであろう。なぜ俺がビッチと呼んでいるかというと、こいつは毎日毎日違う男と遊んでいるので男子からは『遥ビッチ』と呼ばれている。おい、これ最初呼んだ奴絶対ましろウィッチとサノバウィッチ好きだろ。

「お、おう……」

 俺はあまり関わりたくないので適当に返した。というかどこで俺の名前知った。注目されるの嫌いだから影薄く伊賀の忍者並みに学生生活過ごしてるぞ。このまま卒業まで影薄く過ごしたら就職先は忍者関係で埋まっちまうよ……。

「二階堂今日元気無い?」

 俺が座っている席の机に冴原は座った。フワッと甘ったるい柔軟剤の臭いが鼻孔をくすぐった。甘ったるいが嫌いではなくむしろ良い臭いだ。

「いいや、普通だぞ」

 俺が一方的に嫌って何も言葉を返さず無視をし、険悪なムードになり今後の学生生活に支障をきたすぐらいだったら俺は丁寧に短くハキハキとしゃべる。ラブ&ピース万歳。愛してる。

「嘘だろー、いつもはもっと目が生きてるぞ」

 さすがビッチ。俺みたいなボッチに『あなたをいつも見ているよ』アピールを行い自分の事を好きにさせようと思っているな。あと指差すな指。

 こいつの脳内では俺が冴原に告白するも録音機器を見せて冴原が落としてきた男達を使って「言われたくなかったら──」とか言って脅し俺を金づるにする計画を立てているに違いない。勝手な被害妄想だけど。

 だが甘いな冴原。そもそも俺はお前みたいなエロ同人誌の擬人化に興味はない。俺の理想は未知みたいな可愛い子だな。なんなら未知──

「おい、聞いてる?おーい」

 冴原の人差し指が俺の右頬を指した。いきなりスキンシップ……うん、やっぱビッチだな。家帰ったら輝美師匠にビッチ鑑定士を取りたいからって言って修行させて貰おう。

「あぁ、すまん考え事してた」

「なあ、二階堂今日この補充が終わったらマクド行かない?」

 ニコニコしながら可愛い声で聞いてくる冴原。俺じゃなくて他の男子生徒ならこの会話でもう好きになっているだろう。だが俺は違う。雨にも負けず、風にも負けず、巨乳ビッチの誘いにも負けず。お、なんか今なら素手で百足を倒せそうな気がする。今「百足とか楽勝だろう」とか思っただろ。痛いんだぞ百足って噛んだら。めっちゃ腫れるぞ。そして何より体がヌルヌルして──じゃない。俺は脱線しかけている。いやもう事故レベルの脱線している話を戻した。とにかく俺は相手を傷つけず平和に済ます方法を考えた。

 くそっ! 百足が俺の考えを邪魔してくる。だがこれ以上待たせると嫌な気をさせてしまうかも知れない。

「すまん今日遊ぶほどの金持ってきてない上に家の用事をしなきゃいけないから無理だ」

 前半は本当で後半は嘘。だが良い感じに真実と嘘が調和しオーロラソースみたいな良い感じになった。

 冴原は「そうか……」と言った後、

「じゃあ、またいつか行こうな!」

 そう笑顔で言った。

「あぁ、いつかな」

 俺が返事した直後に補充の教師がやって来て補充が始まった。冴原は謎に俺の隣に座り教科書を出した。おい、お前席俺の前の前だから。

 冴原は先生に「座るとこ違うよー」と指摘され紙に書かれている座席になった。最前列の教卓前に冴原。その二つ後に俺といった感じだ。

「はて、俺の彼女の夏休みちゃんは何処へ……」

 そう俺は小さく言ったが、先生の大きな「起立」の声で掻き消された。

 まあ、ぼちぼち頑張るか……。

 3時間ぐらい一学期の勉強をした後、補充初日は終了した。俺は長時間ぶっ通しで勉強したため疲労困憊だった。もう文字を見たら吐きそう……。今すぐ帰ろうとリュックに教科書と明日提出するプリントを入れた。家にいざ行かんと思っていたが補充の教師に「用がある」と言われ職員室に着いていった。

 職員室の端には小さいが話す場所が存在する。透明なガラス机を挟むように一人用のソファーが置いてある感じだ。

 俺はそこに行くと思っていたが職員室前のちょっとしたスペースで先生は立ち止まり話をしだした。

「あのね、二階堂君?」

「どうしました先生」

「あなたテストの点数良いのに何で学校に出席しないのかなーって先生思っちゃって」

 そう。俺は冴原みたいに馬鹿ではない。人より少しだけ賢いのだ。だが出席数が足りない為補充に出ている。

「朝が弱いんですよ俺」

 正確には朝ではなく太陽に弱い。

「なら良いんだけど。とにかく二学期は頑張って来てね途中からでも良いからね」

「はーい」

 疲れており気の抜けた返事になってしまった。先生はそれが気になったのか、

「明日も補充来るのよ」

 そう優しく微笑みながら言った。

「わかってますよ」

 そう言い俺は職員室を後にした。ていうかあの先生誰だ? 初めて喋ったぞ俺。

 昇降口を降り下足室から校門へ、校門からバス停へと朝の行動の逆の行動をした。もちろん、下足室から校門の間で暑すぎて死にかけたのも逆の行動の内に入っている。

■         ■         ■

 俺はバスに乗り『増川公園前』に着いた。スマホで時刻を確認すると一時をほんの少しだけ回っていた。腹は空いていない。それよりも疲れた。10分歩いて家に帰る元気などあるわけもなく、バス停の近くにある増川公園──ではなくその近くにある増井公園に行った。

「こんな時間に増川公園行ったら近所にロリコンて疑われるは……」

 家の近くにある増川公園という場所は小学生達の遊び場だ。

 そしてこの時間帯の増川公園は小学生が多い。ゲームが発足し男子が家の中で遊びようになり逆に女子が外で遊ぶようになった。

 つまり今増川公園は女子小学生がいっぱい遊んでいるわけだ。もちろん親同伴もいるだろう。だから女子小学生がわんさかいる公園に男子高校生が行く……某小学生が好きなバスケ少年は「やっぱり小学生は最高だぜ!」とか言うかも知れない。

 だが真面目に考えれば自殺行為だ。

 増井公園は増川公園の徒歩5分圏内にある小さな公園の事だ。住宅街に近くなく、特に楽しい遊具も無く大きな木々が生えており虫が多い。偏見だが昔の子供は虫が好きだった気がする。だが今の子供は虫が嫌いだ。つまり絶望的なほど子供達に人気が無い。ここは田舎じゃないから「田舎は嫌い、虫が多いから!」って言えないぞ。というか今の子はレイヴンズ知らないか。結構面白いぞ。でも北斗殺したのは許さん。でもやっぱ二期待ってるから。春虎大好きだから頑張れ。

 アホな事を考えながら増井公園に行く途中に自動販売機があるので何か飲み物を買うことにした。リュックから財布を取り出し200円を入れた後何を買うかを考えるため商品欄を見た。

「さすがにスポドリとコーラは売り切れか……」

 スポドリやコーラなどのボタンには売り切れと赤い文字が出ている。

「お茶で良いか」

 そう一人で呟きながらお茶のボタンを押した。ガタンと大きめの音が鳴る。俺がお茶を取ろうとしゃがんだ瞬間、チャリンチャリンとお釣りの小銭が落ちてきた。良いタイミングだ。 

 左手でお茶を取り右手で小銭を取った。小銭を適当にポケットに入れ増井公園へと歩き始めた。

 その後4、5分歩くと増井公園に到着し俺はベンチに腰を降ろし脚をめいいっぱい伸ばした。

「くっ! 気持ちぃ……」

 脚を伸ばせて気持ちが良く気持ちが悪い声が出た。

 ペットボトルの容器のお茶を飲むために蓋をクリッと力強く回し蓋を開けた。

「いただきます」

 そう言った後、お茶をぐいぐい飲んだ。乾いている喉に恵みの雨を降らせた。俺もしかしたら卑弥呼になれるかも。伊賀の忍者に卑弥呼。就職先は十分だな。

 残りのお茶も一気に飲み盛大に「ぷはー」と息を吐いた。横に誰かが静かに座った。気づかなかった。いや、『気づけなかった』。

 俺はバレない程度で横に座った人物を見た。俺と同じでパーカーを着ている。色は白。え? 何? このファッションもしかして流行ってるの?

 俺は気を取り直しバレないよう横の人を見た。顔はフードを被っているので顔が見えない。背が低いのでどこかで遊んでいた小学生か? いや、合法ロリっていうのも十分にあり得る話だ。だが一つだけわかる点がある。それはこいつは尋常じゃないほど影が薄い。まぁ、俺も学校で自分の席に座ってたら近くに来た同じクラスの男子に「うお、お前座ってたのかよ……。影が薄すぎてわからなかったは」とか言われて……ちっ、気分が悪くなってきた。合法ロリなら大丈夫だが、この子が小学生だったら大人に見つかって弁解できたとしてもロリコンというレッテルを貼られ社会的に死ぬ。

 俺は閃いた。

 逃げなきゃ(使命感)。

 俺はさっさとベンチから立ち公園の出口へ歩き出した。俺の人生を守るために。

「待って!」

 後ろ──つまりあの人が大きく言った。その声は女性……いや女性の声にしては高く少女が出す声に近かった。

 俺はいきなり大きな声を出されたのでビックリし体が止まってしまった。俺はとりあえずくるっと回りその子の方を見た。正面から見るとその子の顔が見えた。白髪、赤い目、幼いがどこかクールな顔立ち。どうやら合法ロリではなく本物のロリだったようだ。逃げるにしても逃げれず俺と少女の間に静寂訪れた。さっきの大きな声で大人が来たら怖いので早く逃げないと結構危ないと思った俺は自分の人生と近所の評判を守る為にこの静寂を吐き出した。

「えーと、なんかようか? 俺君の事知らないんだけど」

「私を忘れたの? ブラッド」

 その瞬間頭に激痛が走った。例えるなら濡れている廊下を走ってひっくり返り頭をおもいっきり硬いリノリウム床に打ち付けた痛みに近い。だが違う点が一つあるそれは『その痛みが何回も繰り返し、そして段々強くなっていく』。

「うあぁー! ぐっ! ううぁああ!」

 あまりの痛みに俺は叫ぶ。膝を降りうずくまる。痛みは止まらない。頭が……割れる!

「やっぱり。あなたいじられているわね」

 少女は近づき割れるほど痛む俺の頭に触れる。すると嘘のように痛みが引いていく。俺はゆっくり立ち上がり頭に触れる。さっきみたいに頭が割れるほどの痛みは微塵もない。

「お前一体何した?」

 少女が喋ると痛みが始まり少女が頭に触れると痛みは消えた。つまり彼女が怪しい。俺はそう思い聞いた。

「あなたは本当の自分を知らない」

「答えになってない!」

 大きな声を出し少女を怖がらせて本当の事を吐かせようとした。

「あぁ、ほんとに何も知らないのね」

 少女はため息混じりに言った。恐怖作戦は失敗と……。それより一体どういう意味だ? 『本当の自分を知らない』って。

「少しあれだけど叩いて治すしかないのかしら」

 なにかをぶつぶつ言う少女。

「てかお前俺に何した?」

 今気づけば話をかなり強引に曲げられていた。ちゃんと聞かなければどうしていきなり頭痛がしていきなり消えたのかを。

「いいわ、壊れない程度に叩いてあげる」

 そう少女は言った瞬間視界から消えた。急にパッと透明になったように。

「は?」

 訳がわからず混乱する。瞬間腹に痛みが走る。

「うっ!」

 俺は飛んでいた。比喩表現ではなく本当に飛んでいた。空にではなく、まっすぐ平行──

「ぐっ!」

 ごきっ。嫌な骨の音と共に背中を何かで叩かれたような痛み。それに体がかなりの勢いでぶつかった為肺の空気が一気に押し出され俺はむせた。俺は息を整え立ち上がると最初に立っていたベンチらへん……つまり中央から飛ばされていた。

「ほう。結構本気で殴ったけどあなた硬いわね」

「おい待て。何で戦うんだ!?」

 また視界から消える少女。なるほどバトル展開ですか。じゃあ俺の秘められたスーパーウルトラミラクル──

「って俺は一般人だっつーの!」

 俺はワンパンで敵を倒す自称ヒーローでもなければ異世界に飛ばされてスマホを使う人でもなく、ただの一般人だ。だから今俺のできることは──十字ガードを組んだ。ありがとうはじめの一歩。お前のお陰で俺は死ななくて済む。

 十字ガード。それはクロスアームブロックという名前のボクシングの技だ。何だっけ、顔がガチガチに防御できるんだっけかな? この技。

 俺は頭をくいっと下に下げ右腕が横、左腕を縦に胸元ぐらいで十字に組んだ。さあどこからでも来い!

 パチンッという音と共に一瞬で十字ブロックはほどかれ俺は両手を上に挙げ万歳の状態。

 その瞬間に額を殴られ後にある木に後頭部が強くぶつかる。

「いてっ!」

 葉っぱが何枚かひらりと舞い降りる。

 俺は両手で後頭部を押さえたんこぶができていないかを確かめる。あいつ俺の十字ブロックを手払いでこじ開けやがった。

「何してるの?」

 ひゅっ!という風を切る鋭い音が鳴る。何だっけ?は……はく……あ、剥離渦だっけ? 詳しくは知らんが。てか何で知ってるんd──

 ベシッ! ミシミシ……ドゴン! 静かな増井公園に響く轟音。俺はあまりにもの轟音に余計な事を考えるほどの余裕は消えた。

 後ろを見ると太い木が折れていた。

 その瞬間俺は理解した。

 『このままじゃ死ぬ』と。

「どう?少しはやる気起きたんじゃないのかしら?」

 少女は清々しく言いながら首をかしげる。

「えぇー……今の少女って素手で木をへし折れるほどのパワフルガールになってたの?」

「あら、まだ余裕あるのね」

 また視界から消え公園の中央。つまりベンチ辺りに移動した。少女はベンチをガシッと両手で掴み軽々と持ち上げた。そしてそれを俺にめがけて投げてきた。

 これは避けれない。俺は悟った。ベンチの幅の長さは100cmほど。人間のパンチなら左右に頭を揺らして運で避けれるが幅が広く何より腹より少しだけ上胸辺りを狙っている。しゃがんでも重力がかかり徐々に落ちてきてぶつかる。

「一か八かだ!」

 俺は拳を強く握りしめ一気に放った。飛んでくるベンチにむかって。

 ベキッと木の折れる音が鳴る。指から血がポトポト垂れる。痛いがそれ以外はどこも痛くない。横にはベンチが粉砕された姿で転がっている。俺って本気出したらベンチ破壊できるんだな。

「ほう、一応身体強化は少しだけ出ているのね」

「身体強化ってどういう事だ? そもそも何で戦うんだ?」

「……」

 俺は聞くが一切答えない少女。

「俺は別にお前と戦う気なんて一ミリも無いし、なんか俺が気に障ることやったなら謝る」

 俺はその場で土下座をした。額を地面に着け深々と土下座をした。プライド? そんなの犬にでも喰わせておけ。意味がわかったよ赤い弓兵。どっちみちこのまま戦ってもまず俺が負ける。多分下手すりゃ死ぬ。少女に土下座しているのを見られてバカにされても命が助かれば良い。とりあえず作戦は命大切に。

「甘い……」

「は?」

 予想外の答えに戸惑い気の抜けた返事をしてしまう。こういう場面なら許すのがテンプレじゃねーのか?

「甘いって言ったのよ」

 額を地面に着けているので前が見えない。頭を上げようと思ったが「謝る気ある?」と言われても困るから現状維持。

 ぐわんと体が起きり俺は立ち上がった。無論俺が起きたわけじゃない。体に力を入れて綺麗な土下座をしていた。

 前を見ると少女の右腕が俺の胸ぐらを掴んでいた。つまり少女は俺を片腕で持ち上げたという事だ。俺の体重は53キロで身長は178ぐらい。それに対して少女は157ぐらいだろう。普通に考えて無理だ。だが少女は右腕をピンと伸ばしがっしりと俺の胸ぐらを掴んでいる。

 こいつエグいほどの力持ちか? そんな訳がない。あり得ない。

「あなた死んだことある?」

 少女はそう聞いた。

「んな訳あるか!? 死んだら今ここいねーよ!」

「あぁ、だからあなたはあの日から成長してるのね?」

「何言ってるんだ? さっきから」

「あなたは死にたい?」

「いやいやいや、死にたくないです」

「まぁ、最初からあなたの答えなんて聞かないわ」

 少女は胸ぐらを掴んでいた手を放した。なんだ?逃げさせて──

 バキバキ。何かが砕け散る音と一緒に右肩に激痛が走る。

「うぐっ!」

 俺は体験したことの無い痛みに叫ぶ。歯を食い縛り痛みを和らげようと思うがあまりにも痛すぎて無意味。俺は地に這うゴキブリのようになった。右肩を見ると右肩が『無くなっていた』。辺りは血や肉片。白い骨のようなものも飛び散っていた。俺は後ろを確認し右腕を探した。だが見つからなかった。パーカーの右肩から下も無くなっておりパーカーの右側は血で染まっていた。

「さて、聞きたいは事ある?」

 少女は無表情でそう聞いた。俺は膝で立ちながら、

「何で……こんな事をする!」

 俺は痛みに耐えながらも本心を強く言った。

「あなたが強くなるためよ」

「だから答えになってない! ぐっ」

 叫ぶが体が揺れて傷が痛む。ポトポトと血が大量に地面に垂れる。冷や汗が体験したこと無いほど吹き出す。制服やパーカーは血と汗で濡れている。

「あなたは吸血鬼って知ってる?」

 少女は相変わらずの無表情で聞いた。

「あぁ……知ってるよ」

 俺は痛みに耐えながら強気に答える。

「あなたはそれよ」

「は?」

 吸血鬼だと? あの人の血を吸ったり人を無意味に殺す残忍なやつが俺だと言いたいのかこいつは。

「あなたはブラッドていう吸血鬼の一族よ」

 ブラッド?意味がわからない。

「俺は人間だ」

 そう答えた。

「人間? あの意味もないのに殺し合う下等生物の事よね?」

 少女は無表情の顔を変えた。その顔はどこか怒っているように見えた。こいつ人間が嫌いなのか?

「そうかも知れないが俺は違う。そもそも俺はブラッドじゃなくて二階堂だ」

「あなたは二階堂の子供じゃないわよ?」

「え……」

 俺はそう言われ戸惑った。俺は二階堂の子供じゃないだって? 

「あなた親の顔覚えてる?というかあなた養子よ?」

 そう言われればそうだ。俺は今まで両親の顔を見たことが無い。俺が忘れてるだけだ。いつか思い出せる。思い……。

「違う違う違う! 俺は吸血鬼じゃないし、ブラッドとかいう家なんか知らねーよ」

 俺は怖くなり大きな声を上げ恐怖感を紛らわした。

「あなた何でこんな暑いのにパーカーを着ているの?それにフードも被って」

 いきなり質問をしてくる少女。俺はありのまま答えた。

「太陽に弱い体質なんだよ」

「あなた映画とかで吸血鬼が太陽に弱いのを知らないかしら」

「生憎映画はアニメしか見ない口でな、そういうのは知らん」

「じゃあ、あなたどうやってベンチを殴って壊したの?」

 質問攻めをしてくる少女。

「知らん。一か八かで全力で殴ったら壊れただけだ」

 そのまま答えた。

「人間て本気で殴ったらベンチを壊せるの?」

 その質問は鋭く、俺の『何か』が崩れ始めた。俺は自分が怖くなり黙る。

「徐々に自分が吸血鬼と理解してきたら良いわ。また会いましょうブラッド」

 少女はウインクをした。不覚にも可愛いと思ってしまう。右腕に痛みはなかった。もう痛覚がイカれたのだろう。

「それと、右腕生えてるわよ」

 少女は指で俺の右腕を指した。俺は右腕を確認するとそこにはさっき失ったはずの右腕は生えていた。どこにも傷はなく綺麗ないつもの腕だった。

「なん……で?」

 俺は怖くなった。そしてどんどん俺の『何か』が自分の中で存在が崩れていく。

「吸血鬼はね腕が千切れてもね生きてる間は何度でも生えてくるのよ」

 にやっと微笑みながら言う少女。その言葉を聞いた瞬間ジェンガを崩したように一気に俺の中にある『何か』が崩れた。

「俺は……吸血鬼……」

「さて、じゃあ仕上げに行きましょうか」

 「っっっ!」

 左肩にも激痛が走った。

 口から音の無い叫びとたらーと唾液が垂れる。もはや痛みが強すぎて食い縛る余裕は消えた。痛い……痛い……痛い!

「立ちなさい」

 俺は胸ぐらを捕まれ無理矢理立たされた。意識が薄れる。左肩を見ると右肩と同じ、つまり肩から下が無くなっていた。

「さて、後は心臓を潰せば完璧ね」

 その少女の一言が耳に入る。

「すまん……未知。俺……もうお前に……会えねぇーわ……」

ドシュと肉を断つ音と共に俺の意識は途絶えた。

To be continued

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Fight of blood @KANAMEGINTAROU

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