四天王の中でも最弱の水属性がやられたので、三天王が作戦を練るようです

放睨風我

四天王の中でも最弱の水属性がやられたので、三天王が作戦を練るようです

その夜、勇者によって、魔王軍四天王の一角が落ちた。

暗闇の中、のこる三人は不気味な声を轟かせる。


「ついに四天王がやられたか……」

「フフフ……奴は四天王の中でも最弱……」


火、風、水、土。

四大属性のそれぞれにおいて、最大の力を持つ魔族が、四天王として君臨する。


「最弱で当然……去年、ようやく四天王になったばかり……」


落ちたのは、水属性のチャクである。

好きなものは、かき氷と四天王のみんな。

嫌いなものは、熱帯夜とブロッコリー。

笑ったときのえくぼが可愛いらしい、青い髪をした魔族の少女であった。


「チャク……あんないい子がどうして……」

「まだ12歳だぞ……本気で倒すとかありえなくないか……?」

「勇者め……」

「マジで人間の面汚しよ……」


魔族の寿命は、人間と比べて遥かに長い。にも関わらず弱冠12歳のチャクが四天王に君臨していた理由は、深刻な水属性の人材、いや、魔材不足にあった。


「水属性、人気なくてな……」

「何百年も水は空席だったくらいだ……」

「そもそも能力が癒やしとか補助魔法だから、魔族的に水属性の出生率低いし……」

「カークスの火属性とか選考倍率やばいでしょ……」

「5歳の頃に拾ってきたのはお前だったな、カークス……」

「すげー懐かれて……あの子は本当に天使だった……」

「魔族だけどな……」


水属性のチャクは、熱くて寝苦しい夜が嫌いだった。それにもかかわらず、幼いチャクは毎晩、四六時中身体が炎に包まれているカークスにくっついて寝たがった。

だからカークスは夜通し、身体の火を気合で引っ込め続けなければならなかった。

水泳の授業でお腹を引っ込める感じに近い。


「そうそう、エンリルがチャクの作った氷を削ってやったら大喜びで……」

「オレも風属性長いけど、最弱魔法のエアロカッターがこんなに大活躍する日が来るとは……」

「かき氷器としてな……」


チャクは水を操り、自在に氷を作り出した。それをエンリルの風で削り、かき氷にして食べるのがチャクの大のお気に入りだった。シャクシャクしたの!とか、今日はふわふわがいい!とか、もっとインスタ映え!などとチャクの注文は厳しく、エンリルの風能力コントロールはどんどん精密になっていった。

毎日毎日食べたいと駄々をこねるチャクに困り果て、四天王の掟のひとつとして、野菜も好き嫌いせずに全部食べたらかき氷、という項目が追加された。


「ブロッコリーは最後まで嫌いだったな……」

「でも、カークスのシチューに入ってるやつを気に入ってくれたことがあったじゃないか……」

「ああ……俺の火でじっくりコトコト煮込むと、引き出せる素材の旨味が段違いだ……」

「あれはティタンが大地の栄養分を操って、かなり甘い感じに仕上げてたのもデカい……」

「あの年収穫したブロッコリーは最高の出来だったな……」

「イヤイヤ食べたら美味しくて、驚いたようなチャクのあの笑顔、忘れられねぇ……」


その他の四天王の掟は、早寝早起き、元気にあいさつ、困った時は助け合い、である。

特にチャクは四天王の誰かが傷付くと、それがかすり傷であっても、彼女の能力を使って必死に助けようとした。


「ティタンが大怪我したとき、三日三晩、泣きながら回復魔法をかけ続けていたことも……」

「もちろん覚えているさ……ああ、チャク、優しい子だった……」


土属性の四天王であるティタンは、わりと序盤の方で、一度勇者と戦っていた。

イベント戦闘である。

通常であれば勇者に痛手を与えて、四天王の強大さを知らしめるという展開のはずだ。


ところが勇者はめっちゃレベリングしてた。


「あの勇者、上級魔法ガンガン撃ってきて……」

「HPと防御力なら四天王ナンバーワンのお前が、ズタボロだったよな……」

「イベント戦闘久々だったからわくわくして……HP高めで出ておいてよかったわ……」

「カジュアルコーデだったら死んでたってことか……怖ぇ……」


三天王は、改めて彼らの敵の恐ろしさに震えた。

12歳の少女を躊躇なく倒す勇者である。

彼らの力がわずかでも勇者に及ばなければ、最短でチャクの後を追うだろう。


「その勇者だ……」

「どうした……?」

「今にも踏み込んできてもおかしくないのに、やけに静かじゃないか……」

「カークス、お前、聞いてないのか……?」

「何がだ……?」

「あの子、最後の力を振り絞って、転移補助魔法で勇者を始まりの街まで飛ばしたらしい……」

「何やってんだ……その魔力で自分が逃げ帰ってくればいいのに……」

「チャクがいない四天王なんて、何の意味があるってんだ……」

「くそっ……だめだ、涙が止まらねぇ……」

「カークス、めっちゃ顔から水蒸気出てると思ったら泣いてたのか……」

「ティタン、お前も自分の涙で身体が崩れかけてるじゃねえか……」

「エンリル、風で涙を乾かしても目ぇ真っ赤でバレてるぞ……」


ある日。チャクは何かに気付いたように、水はみんなの中にもあるのね!と喜んだ。


水?うん。怪我して血が出たり、泣いたり、おしっこしたり。おしっこは入れなくていいんじゃないか。へへ。あたしね。水属性に生まれたから、まわりに一緒のお友達もいなくて、寂しかったの。でも、してんのーのみんなは、属性なんて違っても優しかった。だから毎日楽しいの。それに、みんなの中でも、あたしの水が生きてるんだなって思ったら、もっと頑張りたくなったの。


――四天王、あたしでもなれるかなぁ?


「……勇者が始まりの街からここにたどり着くまで、どれだけかかった……?」

「およそ1年……。だが、今の勇者はほぼレベルMAXのはずだ……」

「もっと速くたどり着くだろうな……」

「多少短くてもいい……俺たちには、備える時間がある……」

「チャクが命をかけて稼いだ時間だ……無駄にできると思うか……?」

「無駄にできるわけないだろう……ああ、やってやるとも……」


三天王は決意に満ちた瞳で立ち上がると、後ろも振り返らずさらなる高みを目指す。


カークスは、冥界の火神の力を得るために。

ティタンは、惑星の意志を従わせるために。

エンリルは、宇宙の無をも支配するために。


戦いの行方は、誰も知らない――

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