少女Sと殺人鬼S

叶望

第0話

世の中には2つのタイプの生き物に分けられると聞いたことがないだろうか。


1つは強者。


もう1つは弱者。


力を持つ者が持たない者を支配する。

大昔からあるこの考え方は我々生き物に刷り込まれている物なのかもしれない。


だが、この男。「皐月刃」はそんな考え方が大っ嫌いだった。


何故、支配し抑え込もうとするのだろうか。

元を辿れば同じ、生きとし生きる者同士なのではないか。

力があるから威張れるのか。相手を貶してもいいのだろうか。

力が無いと我慢をしなければならないのだろうか。されるがまま、過ごさないといけないのだろうか。



「そんなの真っ平ごめんだよね。」



皐月刃が自身の右手に持っているナイフを男の頬に叩きつける。

男は、縛られ、猿轡を咥えさえられ、逃げようにも逃げられない。

青ざめた男はただひたすら首を横に振っていた。これでは何を言っているのかまったく分からない。

どうしようかと考えた矢先、致し方無しに皐月は猿轡を外した。

その途端、泣き縋らんばかりに男は大きな声を荒げる。



「た、助けてくれ!!一体、な、何が望みなんだ。か、金か?金が欲しいのか?!だったらいくらでもくれてやる。だから早くっー?!」

「うるさいなぁ。」



男の頬から赤い線が走る。

じんわりと痛みが広がり、血が滲み出て頬を汚していく。

あれほどまで騒いでいた男が、嘘のように静かになった。

これから起こる事を想像したのか、身体の震えが止まらなくなる。

静かになった男を見下ろして皐月は満足そうに、手に持っていたナイフを弄ぶ。



「僕はね、いじめっ子が大っ嫌いなんだー。君、ちゃ~んと部下さん達にお給料、払ってる?お仕事に見合った分、払ってないもんね?会社のためをモットーとして夜遅くまで働かせちゃって。タダ働きも良い所じゃない?それでさ、自分は贅沢三昧に過ごして女の子にお金注ぎ込んじゃってるんでしょう?あ、別に注ぎ込む事は悪い事じゃないよ。だってそれは君が好きでやってる事だもん。けどさ、部下さん達にさ、無理強いして働かせて自分は面白おかしくっていうのは駄目なんじゃないかなぁ。それで何人の人を追い込んだと思うの?」

「わ、私は社長、」

「社長さんだから当たり前?偉いからそういう事をしていいの?だったら随分お門違いな考え方なんだね。偉ぶってるのがしゃちょーさんじゃないんだよ。部下を思いやるのがしゃちょーさんなんだ。」



永遠と彼から流れる言葉の数々。

言葉を挟む隙なんて見せてもらえない。

けれどそろそろお別れの時間。



「僕もう帰らなきゃ。」



男に見せつける様に、弄んでいたナイフを持ち直し、高笑いをした。

悲鳴を零した男は助けを呼ぼうと口を開くが、皐月の足が腹部に飛んできてしまい、嗚咽しか吐けなかった。



「ばいばい。」



大きく振りかぶったナイフが宙で光った。

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