しつこくすすめるラグビー観戦


 ラグビー、見てますか。いや、答えなくていい。知ってる。見てへんて知ってる。そんな答えを知りつつ、みんな見てるよね! 6ネイションズ! という態でうっとおしいテンションのまましゃべり始めるけども、欧州六カ国対抗戦は第三節まで進み、フランスが大健闘を見せている。


 南半球ではプロリーグであるスーパーラグビーもやっているが、贔屓のチームも特にないためそこまで身が入らない。なにより、国同士の真剣勝負である6ネイションズの面白さは別格である。国対国で行われるスポーツは戦争の代替行為ともいわれるように、意地のぶつかり合いが半端ではない。比較的最近に始まったワールドカップよりもむしろ、百年からの古い歴史を持つ欧州対抗戦に、参加国は重きを置いているようにさえ見えなくもない。喧嘩は近所のが熱い、ということか。たしかに二筋向こうのそこまでよう知らん相手に勝つよりも、普段から色々気に食わないお隣をやっつけた方が気分はいいだろう。世界平和なんかどだい無理やでな、と思う。


 さて、好調のフランスである。去年歴史的大敗を喫したイングランドを見事に押さえ込んだ初戦もすごかったが、2月22日の対ウェールズ戦も面白かった。

 フランスはここ数年ずっと低迷していたのだけれど、それは新旧切り替えの過渡期だからだとかねて言われていた。ベテラン選手から若者中心のチームに作り変えている最中なのだと。というのも、フランスは次のW杯の開催国である。自国大会では是が非でも負けられない。そのためには、2019年の日本大会を犠牲にしてでもチームを刷新し、来る2023年に備えているのだ、ということだった。

 なんかもう、予定を立てるのは二週間先までが限界というわたしのようなオバハンには、そんな長期的なチーム建設計画など、まるで魔術にすら思える。スポーツの世界はすさまじいよな、と小学生のような感想しか出ないのだが、こう、人間という流動的で不確かなものを集めてチームを強くしていく、という計画が人間によって考えられ実行され、明らかに成功しつつあるというのは見ていてとても興奮する。


 そんなわけで、別にこれまでフランスファン、というのではなかったが、だいたいいつも肩入れしているアイルランドと同等かひょっとしたらそれ以上に、わたしは今年フランスに注目してるのだった。しかもね、いいですか、フランスのアントワーヌ・デュポンはまたしてもわたしの好きなタイプの男である。前にも言うたような気がするけれども。猪首でぶチャっとしてて不細工と男前の境界線のぎりぎり男前側にいる、攻撃的なプレースタイルのスクラムハーフ、あと2番のカミーユ・シャも、どっからが肩でどっからが首なのか不明瞭な「鍛え過ぎ感」がたまらない。

 などという、わたしの男の好みはどうでもいいのだ。22日のフランス対ウェールズ戦は、もう喧嘩! という様相が濃厚で、大変面白かったのである。とにかく、ウェールズ代表のベテラン(つってもまだ三十)スタンドオフ、ダン・ビガーのご機嫌が、試合開始12分のハイボールキャッチをめぐっての攻防あたりからどんどんよろしくなくなってゆき、レフリーに文句言いまくり、後半なんかにはもう、フリーキックになったボールをレフリーのOKを待たずして蹴ってフランスの選手にわざとぶつけたり、デュポンに代わって出てきたサランが球を蹴り出して勝負が決まった瞬間フランス選手側に突っ込んで掴みかかりに行ったり(逆に投げ飛ばされ返り討ちに遭ってたけど)、そらもうひどかった。それを契機に、ノーサイドの笛が鳴ってんのに両軍はもみ合いになり、ウェールズのトンプキンズとフランスのヴァカタワはしばらくずーーっと口ゲンカしてたし、だいたいその前にも、試合中、ジョシュ・アダムスとトマがなんだかんだ言い争っていたのはずいぶん長い時間だったように思う。あれ、何言うてんねやろ? そもそも英語とフランス語でケンカ成り立つん? と思わんでもないけど、不思議なことに悪口は通じる(ような気がする)。それも特段込み入った内容ではなく、ばーかばーか、うるさいわいヘタレ、変な髪形、ダボハゼー、くらいのことを延々言っているのではなかろうか。


 おしまいまでイライラしどおしだったビガーに対して、対面(トイメン:相手側の同ポジション選手)のロマン・ヌタマックはまだ二十歳なのにびっくりするほど沈着だった。すきっ歯が可愛い二世のスター選手である。途中、若いのになんであんなに落ち着いてんのやろなー、とわたしが言うと、一緒に見ていた夫が、髪の毛にゴディバのチョコ隠してて疲れたら時々食ってるから、と応えた。

「ほな松田(日本の若手スタンドオフ、京都市立伏見工業高校出身)も阿闍梨餅とか仕込んどいたらええやん」

「松田に阿闍梨餅ではあかんわ」

 ぉんじゃあ八ッ橋は、蕎麦ぼうろは、花びら餅はなどと松田に効きそうな地元のお菓子から、果ては生湯葉、紫葉漬け、鱧のおとしなど魅惑の郷土名物までをわたしは残り時間いっぱい提案し倒したが、正味のはなしこのように何年ラグビーを見ていてもそんなスカタンな所感しか未だに抱き得ない人間だっているのだから、ルールが難しそうとかいう些細な理由でラグビーを敬遠している方にも、気軽に楽しんでもらいたいなあと思う次第である。ルールなんか、見てるうちに大体わかる。大体でいい。それよりも、素敵なムキムキたちを観察し、彼らが織りなす八十分のドラマを何となく面白がってほしい。


 しかしながら、よく考えたらゴディバはベルギーのメーカーだった気がする。ということは、ヌタマックが髪の毛に入れてんのは、パトリック・ロジェのチョコレートか。(違います)

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