生きる希望



 もうじき夏休みも終わって九月になる。自分が小学生の頃は九月になって新学期やったのに、と思う。今の小学生はかわいそうやなあ。

 そんで、九月になったら日本と、わたしのファフ・デクラーク擁する南アフリカのワールドカップ壮行試合があって、すぐに本番になって、わたしがチケットを買った予選プールAのサモア対スコットランド戦がやってきてしまう。こなくていい。いや、永遠にこないとなるとそれはそれで困るけど、まだもう二か月くらい引っ張ってほしい。W杯が終わってからの虚脱が怖いのである。わたくしは退屈が怖いのです、てマリー・アントワネットか。でも正味のはなし、祭りの後、自分は何を楽しみに生きていけばいいのかわからない。次のW杯か? 四年も先の。フランス開催やけど。アントワネットだけに? せ・こんびあん。


 ところでわたしのファフ・デクラークに関して言うと、先だっての南半球四カ国対抗戦二試合目では脳震盪の疑いで途中退場、三試合目には後半にシン・ビン(反則行為による十分間の退場)を食らい、解説の藤島大さんにも「スクラムハーフは反則しちゃいけないポジションなんですよ」とくさされ、しかも一試合目でテストマッチデビュー(しかもスタメンだった)、二、三試合目もファフの代わりに出てきたハーシェル・ヤンチースの調子がすこぶるよくて、あー、9番どうなるのかなー、とわたしはファフの、相変わらずさらっさらの見事な金髪とムチムチもっちゃりした全身を見ながらほんの少しだけ心配になった。


 南アフリカはしかし、すごくいいチームだと思うのだ。いや、詳しいことは知らんよ。所詮何年見てても未だにオフサイドやら何やらの細かいルールがいまいちな「しろとはん」の印象である。でも、なんというか、こう、実にラグビーっぽいなあ、と思う。何がと言って、まっさきに目につく大男と小兵とのものすごい落差がである。国歌斉唱のときに、チームが一列に並ぶところだけでも、ご覧いただければ分かる。見て。九月六日。多分テレビもちゃんと普通の地上波でやるから。

 一番でかい男は206センチのスナイマン、小さいのは167センチしかない件のヤンチース、他にもおっきいのちっさいのがデコボコしていて実に壮観である。ニュージーランドはもとより、イングランドやらアルゼンチン、フィジーなんかはわりと凹凸なくみんな大体デカイわ、って感じなのだが、それに比べて「大人のなかに若干名、中学生が混ざってます」みたいな錯覚を覚えてしまう南アフリカ・スプリングボクス。

 理屈の上では、みんなまんべんなくでかい方が有利なのかもしれない。身体がでかい方が、衝突時の破壊力は当然大きいからだ。ただラグビーは、というかおしなべて球技というものは何でもそうなのだと思うけれども、最終的にはアタマなのだ。ただデカかったり脚が速かったりするだけではだめなのである。ラグビーは三人寄れば文殊の知恵的なところが大きく、個人個人の特性を生かした戦術を練り、それぞれの得意な仕事を組み合わせれば、みんながみんなでかくなくても十分勝てる。それを証明するのが今のスプリングボクスなのであり、願わくは我が国にもそうなってほしい。まー日本は、みんながそうでなくてもやっぱりでかいのが多い南アと違って、文字通りの意味で「みんながみんなでかくない」わけだから、ちょっと事情は大変なのだが。


 ヤンチースはデビュー戦でトライを決めたとき、満面の笑みを浮かべたチームで二番目にでかい(204センチ)エべン・エツベスからぎゅーーー、ぶっちゅー、と祝福されていたのだけども、そらもう一尺以上も身長差があるものだからただのぎゅーーー、ぶっちゅー、ではなかった。ほとんど抱かれてた。その場面がとてもよかった。ボールを持って走るエツベスなんて、絵ヅラとしてはあたかも暴走するキリンである。ディフェンス側にすればあんなのに走ってこられたらイヤだ。でもその暴走キリンの仲間への抱擁はとても温かく、力強く、親身なものだった。ああいうのを見ると、ますますいいチームだなあ、と思う。


 その南アフリカからは、W杯後、何人もの選手が日本のトップリーグに来てプレーすることが決まっている。世界一セクシーなフロントロー、マルコム・マークスもその一人である。もしもわたしが『美女と野獣』の実写版の監督だったら演技力は度外視の上で間違いなく王子役に抜擢しタイツを履かせていただろう。いやあ、あの大腿筋を包み込めるタイツはないよなー。福助に特注やなー。なんて、妄想はとどまるところを知らない。NTTの試合観に行かなあかんわ。はよ行きたいわ。

 と書いたところで、そうか、それがわたしの新しい楽しみになるのか、とあっさり気が付いた。ああよかった。生きていく。らららー。

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