宝くじが買えない



 初期のRCサクセションに、「宝くじは買わない」という曲がある。四百万円当たっても今より幸せにはなれないから宝くじは買わない、というほどのことをキヨシローは歌った。当時の一等は四百万だったのだろうか。調べれば分かると思うが、例によって調べないままとりあえずゴイノン。現在一等っていくらになってるのか、それもよう知らんけど、なんか七億とか聞いたような気がする。七億かー。一万円札でどれくらいの嵩になるのだろう。もし自分が七億持たされたら、「暗くて御靴が見えないわ」「此れで明るくなつたらう」みたいな、玄関先で札びらを燃やすような行為に及ぶだろうか。いやあ、無理無理。無理やろなあ。それどころか今まで通り野菜の端っこが捨てられないとか、一昨日のこんにゃくの炊いたヤツをまだ今日も昼おかずにするとか、いくらおぜぜを持っても治らない貧乏症をより強く意識することになって、果てしなく情けない気分になるのではないかと思う。でもさあ、だって、それ食べられるねんもん。食べ物を粗末にすると、もったいないお化けも出てくるし。ていうかわたしがもったいないお化けなのか。それならそれでカッコいいんだが。


 だいいち、宝くじが買えない。馬券は買ったことがある。でも宝くじは買ったことがない。ひとにプレゼントするのに買ったことはあるけど、自分のためにはない。予想も何もない、本当の純粋な運だけをたのんで銭を払う、ということがわたしにはできない。多分おおかたまあ恐らく外れるサマージャンボ一枚に200円つっこむくらいならば、確実に口に入るおかめ納豆3パック68円(広告の品)とカンパチのカマんとこ100円を買ってきて、カンパチは塩してグリルで焼き、ついでに一昨日のこんにゃくは野菜の端っこと共にもういっぺん炒め煮かなんかになって、わたしのデラックス昼御飯の完成。おつりは繰越。納豆も3パックのうちの1パックだけ食べるわけで、残りの2パックは晩御飯に繰越。


 なんで自分がこんな「始末屋」になったのかは見当もつかない。おばあちゃん子だからじゃない? とひとからは言われることもあるし、若いのに(いやもうええ年ですけど)エライ、などと褒めらたりすると弁明するのもメンドーなので「いっやー、おばあちゃん子やから」なんて自ら言ったりする。

 しかしながら、八歳から成人するまでの間わたしの面倒を主に見てくれた大正九年生まれの閣下は、戦時中も父親(つまりわたしの曾祖父)が軍属だった関係でほとんど飢えたことがなく、とにかく何でも大事にしてしまうと聞く食糧難物資難で辛酸をなめたその世代の人たちとはちがって、不用と思えばいかなるものでも躊躇なく、ばんばん「ほかす」人であった。おまけに、昭和三十年代から女だてらに商売をやって相場にまで手を出していたのである。開発中のめぼしい宅地があると聞けばまるで八百屋で大根を買うがごとく契約してきて、わたしは結局閣下が購ったそこの家で生まれた。そういえば閣下、宝くじも毎度買ってたなあ。わたしが梅田の第一ビルまでお使いにやられたこともあった。全然当たらへんかったけどもよく言うアレだ、夢を買っていたのだと思う。株のことも、「おもしろそうやな思うて、買うたんや」と言っていたから、何事もただおもしろづくでやっていたのかもしれない。

 それをば何ですか。わたしは閣下と寝食を共にし、そのこしらえてくれた茶色弁当を毎日食べていたというのに、そうした豪快さや放胆な勝負強さみたいなものは全く受け継がず、弁当作製における配色センスのなさだけを相承したのだった。


 始末というのはしかし、自分で言うのもなんだけれども一種の美徳であると思う。ケチとは似て非なるもので、「それが本当に必要なのかどうか、はじめとおわりをよく考えるから『始末』なのである、それに対して何でもかんでもむやみに物惜しみするのが『ケチ』なのだ」ということを何かで読んだか聞いたかした覚えがある。だから自分が始末屋であること自体についてはどうとも思わない。宝くじについても、まあ、シュミがちがう、と考えれば片付く。ただ、物の管理が悪くてハンドクリームとかリップクリームとかを二重三重に買ってきて無駄に散財してしまうあたりが、どうにもこうにも爪で集めて箕でこぼす「始末屋くずれ」といった有様で、恥ずかしいのである。

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