置かれたところでガンガン咲きなさい。

 夫の実家には竹藪がある。一義的には両親と仏壇を竹林に埋没させないために、副次的には夕飯の食材の獲得のために、五月六月はしばしばタケノコを取りに帰った。


 タケノコ掘りで薮に入るとき必ず持って行く物は、スコップ、包丁、そしてタケノコを収めるかごの三点である。

 そのかごは昔、わたしが大学生だった頃買ったもので、夏の終わりになんばウォークで千円ぽっきりの投げ売りになっていたのだった。茶色と青のだんだら模様に編まれていて、持ち手が長いから肩に掛けられる。タケノコを入れて担ごうという気になるくらいと言えばお察しいただけるかと思うがとにかくデカくて丈夫なことだけが取り柄で、これに水着やなんかの一切合財をぶち込んで須磨へ泳ぎに行ったこともあったけれども、素材が何と言うのか、とりあえずチクチク粗い、ナチュラルも度を越した繊維で、ナイフみたいに尖っては着ているスカート、ブラウス、パンスト等々さわるものみな傷つけてばかりだったため、あっという間にお蔵入りになった。即時廃棄の処分に至らなかったのは、元々わたしが物を捨てられない体質であることも大きいが、やっぱりとにかくデカかったからで、服飾方面でお払い箱になったかごはその後、クローゼットの中で収納の仕事に携わることになった。一芸に秀でたもの、他より長じたる一点のあるものは、そう簡単に葬り去られたりしないという例である。


 かくて、わたしの結婚後もかごはずっと実家で保管というか放置というか、なんとなく捨てられないまま幾春秋を過ごしてきたのであるが、数年前、かごの処遇に関して、またもや決断を迫られる局面を迎えたのだった。実家の引越である。

 ずぼらで杜撰でだらしのないわたしは、みずからの結婚に際しても自室の整理なんどということをほぼ全くせず、ありていにいえば友達のうちに泊まりに行くようなノリで家を出てきた。実際、結婚してもしばらくの間は実家の方で仕事をしていたし、閣下の介護のこともあったりして、ほとんど毎日実家に帰っていたので、あらためてわたしの部屋がどうのとかいうことは親の方でも全く気にしていなかったのだ。

 だが後回しにした仕事も、いつかは「後」が「今」になって、やらなければいけなくなる日が来るのである。

 この引越のときには実にいろんなものを、そのうちのいくつかに関してはまさに断腸の思いで捨てたけれども、だんだらのかごはふたたび生き残った。なぜならやはり、デカかったからだ。これだけデカければ、山や畑で何かに使えるだろう。ド田舎に住むようになっていたわたしはそう思って、車のトランクにかごを積み込んだのだった。

 以来、かごはなすびを入れ、みかんを入れ、キャベツを入れ、畑における運輸業に役立ってきた。とくに冒頭に述べた通り、タケノコ掘りには欠かせないパートナーである。素材の粗さも、着ているのがそれ用の襤褸ならば何ら問題ではない。


 先だっては庭の草引きをした。三年物の強固なススキを、そのへんにあったレンガをスコップの下に差し込んで根扱ぎにし、梃子の力にひたすら感動してギリシャ人はすげえなぁなんてひとり大声で口走ったりしていたのだけども、そのようにして掘り起こし、引っこ抜いた草をまとめて放り込むのもやっぱりだんだらのかご。ド田舎からまた町に出てくるときもかごは持ってきて、普段は玉葱やらジャガイモやらを保存するのに使っている。もはやこのかごを見ているだけで、名も知らぬ遠き島よりと歌い出したくなるがまあ名を知らぬことはなくて、難波のショッピングモールから流れ来たとわかっているうえ元より当然椰子の実でもなくもとの店がどうなってるかはもうわからんけれど、ともかくも当のかごの身になってみればたいがい激動の半生だと言えよう。かごはどう思っているのだろうか。海水浴に行ったこととか、覚えているだろうか。今、ススキを突っ込まれておえー、草はやめろや、草はよおー、くらいのことは思うのだろうか。本人は昔の境遇と引き比べてぞんざいな扱いを受けていると感じているかもしれないが、今ほどわたしがこのかごを重宝に思って大事にしていたことはない。底が抜けた日には泣くだろう。顎が外れるまで号泣する。

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