インプット
ひとの顔と名前を覚えるのが得意だった。高校の頃、部活でマネージャーをしていたときに鍛えられたのではないかと自分では推測している。
入部して、先輩マネージャーから一番に出された宿題は、部員をみんな覚えることだった。二日で、わたしは三十人全員の顔と名前を一致させられるようになった。先輩はびっくりして褒めてくれた。味をしめ、本当に自分はこれが得意なのだ、と思い込むことによって、さらにその技を磨いた。年にいっぺんしか会わないおじいちゃんOBの名前を翌年までちゃんと覚えていて、猛烈に喜ばれたこともあった。
技と言っても大したことはない。ひとの名前を聞いたとき、それ単体で覚えようとするのではなく、自分のすでに知っている他の何かと結び付けるようにする。もう、身も蓋もない言い方をすると、あだ名をつけるのだ。例えば、山本さんだったら「ああ、キッドさんね」。そういうふうにしてしまう。ただそれだけである。しょうむないことだが、よく効く。少なくとも、わたしには効く。
あああああのあの、そうキッド。やまもっさん。
ただ、この数年それがどうにもこうにも通用しなくなってきた。どういう局面でかと言うと、御察しの通りラグビーです。特に海外ラグビー。外国のラグビー選手。全っ然覚えられない。トシも関係あるとは思う。わたしも四十路目前だ。にしてももうちょっと何とかしたい。ほらほらほらほら、おるやん、おるやろ、すげえ刺青してて(いっぱいいる)、マッチョで(全員だ)、髪の毛が果てしなくチリチリ(うーん、それだけではなあ)。
NZのクルセイダーズにモウンガというスタンドオフがいるのだが、このひとの名前を覚えるにあたってわたしは一旦その語感から「小遊三」と結び付けてしまい、いや違うぞ、てことでそこに「ウガンダ」を加えて微調整、しかもオーストラリアのブランビーズにはファインガというフッカーもいたりして、どう説明したところで自分以外のひとには伝わらないと思うけど、とりあえず随時思い出せるようにはなったはいいが毎度「こゆうざ」「ウガンダ」「ファインガ?」を経由してからでないと「モウンガ」までたどり着けない想起できないというのは何となく情けない。
ウェールズ代表はデイヴィス姓が多過ぎる。だいたいUKの人々ときたらジェイミーとかジョージとかジョナサンとかジョシュとかジョニーとかジョンとか、名前がJで始まり過ぎ。ややこしい。ファーストネームとファミリーネーム、どっちでもありなヤツも混乱する。日本で言ったら「まさき」さんとか「いずみ」さんあたりか。トンガ、サモア、フィジーらへんのひとたちは今までの人生で馴染みがなさ過ぎてほんとに難しい。ただしラダラダラっていうフィジー代表選手に関しては、逆にインパクトがあり過ぎて何をしなくても一発で覚えたけど。ラダラダラ……楽しそう。
あともう一人、外見とも相俟っての強インパクトで覚えたのはフランスのバスタローだ。マチュー・バス太郎。ほんとにもう、バス太郎なんですってば。バックス(主に走ってトライを狙いに行くポジション)のくせに目方が120kgもある。それでいて俊足である。バスタローのタックル映像なんて、もはや衝突事故シーン。せやからバス太郎なんやな、そうやな、そらバス太郎やわ、って、大した意味もないのに激しく興奮してしまう。動画を、いっぺんでいいから見てみてほしい。もう今日は、これが言いたいがためだけに書きました。付き合せてすみません。でもね好き好き好きなのバスタロー。日本のリーグに来たがってるとかいう噂があるが本当だろうか。わたし絶対見に行くで。NHKのラジオ講座で、フランス語も始めちゃう。せっしぼーん。
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