パソコソのヤホーで検索
ネット社会というのはイヤなもので、たいがいのことは調べりゃすぐわかってしまうのだった。
先だって、ほんの出来心というか、あ、そうかと気がついて、ファフ・デクラークの名前をね、アルファベットでググってみたの。気付くのが遅いわ。いやもう、わたしときたらそのへんは南北朝時代頃の人と変わらない感覚なので仕方がない。カタカナで打ち込んでも日本語で書かれた情報しか出てこないのは当たり前なのである(そしてそれは猛烈に少ない。ひょっとしてわたしがこないだから書いてる一連の文章を公開したら、検索結果の上位に食い込めるんではないかと思ってしまうくらい少ない)。
ともかく、「faf de klerk」って入れてみた。そしたらあなた、出るわ出るわ、ファフ本人がやってるツイッターやらFBやらインスタグラムやら。もう見放題である。そしてファフは、嫁さんか彼女か婚約者か知らんが、自分のパートナーの写真をあげまくっていた。けったくそわるいというのはこのことである。本当に、心が折れてしまいましたね。今まで「マチャロス」なんどということを真剣に言っている方々のことをくっだらねえ、と蔑視してきたのであるが、全面的に自分が悪かったと認めよう。わたくしが至りませんでした。お気持ちお察し申し上げます。こうしてひとは人生の陰影に対する認識を深め、人間的な成長をみるのである。
で、無事人間的に成長したところで本題である。
父が難病になってしまったことは申し上げた。体が不自由になり、もう一人では入浴も満足にできないでいる。それで、介護認定の申請をし、過日認定調査員の方が来られて父の状態を見せたのだけれども、一か月弱して郵送されてきた結果は、一番低いランクの要支援1、というものだった。考えようによっては、オマエはまだまだ動ける、まだ大丈夫、ということだからよいことなのだろうが、反面受けられる介護サービスの内容が限られてくるためウチとしては困るのである。最も軽いレベルの認定で、どこまで介護生活を維持できるのだろうか。
そしてそうした介護内容の計画を立ててくれるのがケアマネージャーという職の方々なのだけれども、ケアマネさんにもあたりはずれがある、などと聞くのが浮世の厳しさである。ケアマネージャーは、大雑把に言うと、行政側が利用者に紹介してくれるようになっている。そういえばリリー・フランキーが「どんな商売でもピンキリ」って言ってたなあ。そんで、そのどっちに当たるかってところにひとの持つ運が出る、って。
わたしは認定調査員さんがうちに来てくれたときから、何かあったら閣下が晩年お世話になった大塚さんというケアマネさんに頼んでみればいいかもしれない、と思っていた。調査員さんが、認定が下りたとき、こちらからケアマネを指名することもできる、という意味のことを言っていたからだ。大塚さんは文句なしに大当たりのケアマネさんだった。閣下そしてわたしたち家族は、その点運が良かったのである。
ただ、閣下が亡くなってからかれこれ十年近くの歳月が流れており、さすがに閣下の介護云々の書類やなんかはもう処分していて、大塚さんのお勤め先の名称も不確かな記憶になり果てていた。第一、大塚さんが以前と同じ事業所にいるとも限らない。
それでも脳味噌の底をさらいにさらって夜中にパソコンを起こし、大塚さんがおられたのはなーんかこんな感じの名前んとこやったよなー、というのをヤフーの検索ボックスに打ち込み、上がってきた内で三件、これかと思われる事業所の電話番号をメモして翌日かけてみた。
したら、あたりをつけていた三件中の一件目で、電話を取ってくれたその人が大塚さんだったのよ。そらもう、びっくりした。わたしも、大塚さんも。
大塚さんは閣下のこともわたしのことも、おまけにわたしの娘のことまでもちゃんと覚えて下さっていて、すぐに話を聞いてくれた。
残念ながら今度は大塚さんのお世話にはなれないということが判明した。少なくとも当面は、ということなのだが、大塚さんがケアプランを作成できるのは「要介護1」以上の認定を受けた人たちに関してで、父のように「要支援」の区分の人たちについては権限外なのだという。つまり、大塚さんを「指名」できるのは、父がもっと悪くなったときなのだ。
それでも、変な話だが安心したのだった。このさきも、大塚さんがいるから大丈夫だと。いや全然大丈夫ではないのだが。それはわかっているのだが。
大塚さんの声を聞いてとても嬉しかった。大塚さんも、大変なことやけど、今日はお話できて嬉しかったわ! と言って下さった。ひとは、仕事をするひとは、かくあらねばならない、どのような仕事であっても、自分のつとめぶりをもってして、接したひとから後々まで思い出されるというくらいに、つとめを果たさなければならないと、非常に胸を衝かれた。プロフェッショナルっていうのはそういうことなのだ。あと、いわずもがなですがネット社会はすごいっすね。あんなおぼろな記憶を元にしてでも、調べりゃちゃんとわかってしまったのだ。
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