That’s The Way Love Goes
吉木りささんをご存知だろうか。わたしが吉木さんを初めて見たのはラグビーワールドカップ前回大会、NHKで放送された日本対南ア戦の生中継番組においてであった。わたしが吉木さんを初めて見たのはこの日だったが、吉木さんがラグビーの試合を初めて見たのもこの日だったそうである。
試合開始前のスタジオで、可愛い服を着た吉木さんは甚だ場違いに見えた。吉木さんのことをちゃんと知っていた夫に聞けばこの人ほんとはグラビアアイドルだというのに、なんで事務所はこの仕事取って来たんやろ、と疑問でならなかった。
でも吉木さんは、ハーフタイムでコメントを求められたときも一生懸命で、前半28分の日本側のトライシーンについて「胸が震えましたね!」と笑顔で答え、そうか、そらぁ出演者みんなが訳知り顔のモンばっかりで専門的なことをわいわい言うてたら、今この放送を見てるいちげんさんは疎外感を抱くだろう、この人は「今日初めてラグビーを見る人代表」としてここに呼ばれて来たのだ、とわたしは得心したのだった。吉木さんはいい仕事をしたのである。
そして吉木さんはこの歴史的な大一番を見てすっかりラグビーファンになり、今では自前でチケットを買ってトップリーグの試合を見に行ったりしているそうなのだ。少し前にJスポーツで放送された来年のW杯日本大会に向けてのPRイベントをはじめ、ラグビー関係の番組にばんばんゲスト出演したり、仕事つながってよかったね、なんてわたしは吉木さんのオカンなのか。でも腹からそう思うのよ。そして何よりも、吉木さんがラグビーに出会ったことを、ほんとにほんとによかったねと、わたしは寿ぐものである。これであなたは病めるときも健やかなるときも、ラグビーさえあれば一生退屈せずに暮らせるわよ……!
自分の身辺がとっ散らかりだした夏の終わり頃から、ラグビー観戦は、わたしの心の支えとなっていた。心の支えというかもはや唯一確実な現実逃避先として、ずっとそこにあった。決して楽しくない予定が立て込んでいる中、くそう、でも土曜まで頑張ったらワラビーズ対ボクス戦や、とか考えるのはずいぶん気の慰められることだったし、実際試合を見ている八十分間は余計なことを思わずに、楕円球の行方を追うことだけに集中できた。
しかも先だってお話しした通り、南アフリカ代表のSHフランソワ・デクラークへの恋着の念は増強の一途をたどり、今じゃもう毎朝パートに出る前からファフの映像(9.29対豪州戦の後半十九分、口からの出血を手当てしているシーン)を見てだああああああああああああ今日も頑張ろう、と絶叫している始末である。
あの駄文を送信した後で、誰かがyoutubeにファフの動画を編集してあげているのも見つけてしまい、日本では放送されていないファフのセール・シャークスでの姿が拝めるのは嬉しいものの、わたしの男を勝手にアップせんといてほしいな!! と軽くもやもやしたり、ファフがスーパーグラスのギャズに似てる、と気付いてからは居ても立ってもいられなくなり、スーパーグラスのアルバムを全部買い揃えてしまったり。よっぽどの事情なくしてもうこれ以上CDを増やしてはならん、まじで置き場がないしもとより銭もない、と昨今自分を戒め続けてきたにもかかわらず。スーパーグラス、ブリットポップ全盛期には見向きもしなかったバンドなのに(だいたいわたしはイギリスのバンドはそんなに好きじゃない)。これはもう完全に脳の誤作動である。ファフはオマエの男ではありません。ギャズはファフではありません。でもわたしだって、さすがにそんなことは知ってるのだ。
昔ジャネット・ジャクソンが“that's the way love goes”と歌っていたのを思い出す。90年代に入ってからのR&Bにしては珍しく邦題のついた曲で、日本盤のライナーには「それが愛というものだから」と記載されていた。
まったくもってそれが愛というものらしくて、逸走をはじめたわたしの恋心は、この先しばらくとどまるところを知らないもようである。とにかくファフのことを考えている間は幸せだ。ファフの長い金髪が、ゲームが進んでいくにつれて汗で濡れてごしゃごしゃの毛束になっていくのが素敵。でもやっぱり、ファフは私服がダサそうやなとか、シャークスの黄色いジャージはことさら全然似合ってないとか思っている。前者については無根拠、後者についてはあんな蛍光イエローのジャージ、着こなせるのは全世界でもイトジェくらいしかいないだろ、という代物なんだけど、敢えて内心くさしている。なにしろこちとらツンデレだから。(違うって。)
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