プーアル茶がすきです


 食後はお茶を飲む。おやつの時にも飲む。何はなくとも飲む。お茶が好きである。

 お茶が嫌いな人っているのだろうか。いるんやろうなあ。オレは常温の水しか飲まへん、とか言う、スタローンみたいな人。まあ、そういう手合いはついでにエイドリアーン! と叫んでいればいいのだ。


 いろんなお茶がある。わたしには、玉露も番茶も紅茶も、じつは同種の、あのツバキ科のチャの木からとれる同じ葉だということがいまだに信じられない。でもうどんもお好み焼きも食パンも、みんな小麦から出来ている、それとだいたい同じ理屈だ、と言われたら不承不承、あー、まー、そうか、と納得しないでもないのだが、とにかく不思議なことである。だって色も味も匂いも全然ちゃうやん。


 マリアージュ、などと聞くとどうにもこうにもしゃらくさくて、ああ、結婚式場な。八条口にあるで。アバンティの中。とか世界最低のしょうむない返しをしたくなるのだけども、ワインで言うところのそれね、マリアージュ、飲み物と食べ物の相性というのが、お茶にもあると思う。そらあるよなあ。何にでも珈琲を合わせてしまう人もいるし(わたしは珈琲を豆茶部門に分類している)、煎茶一本の人もいる。わたしはわりと面倒臭がらずにこれにはあれ、とアテ(というのか不明だが)によってお茶を変えるたちである。日々のご飯の後は玄米茶かほうじ茶、中華系のものをおかずにした時はウーロン茶かジャスミン茶かプーアル茶、阿闍梨餅を食ったら煎茶か抹茶、カステラは紅茶、厭々ながら立場上仕方なくカスタードクリーム系のお菓子を御相伴する羽目になった時には珈琲を飲む。アテがなくても延々飲み続けられるのは蕎麦茶と麦茶だ。どっちも香ばしくてそれだけで旨い。あと、二年に一回くらいの頻度で魔がさしてどくだみなどの野草茶に手を出す。マゾヒズムなのだろうか。まっず。まっずー、と一口ごとにまずいことをしんから味わいながら飲む。そして、それはそれで楽しい。どくだみ茶のまずさというのは、裏を返せば安心感のかたまりである。盤石のまずさ。不動のまずさ。わたしの期待を裏切らない、永遠の真理。

 

 ともかくも、お茶とアテとは、やはり出里が同じモンどうしを合わせるのがいいのだろうなあ、とものすごく単純なことを考える。和菓子には日本のお茶を。洋菓子には紅茶か珈琲を。そして中華菓子には中華系のお茶を!


 先だって夫が香港で買ってきてくれたお菓子は、ケーキというのかタルトというのか、そういう「粉練って焼きました」態の外回り(後々はたと思い当たったのだが、あれはカロリーメイトにそっくりだった)にマンゴーと松の実かなんかの餡が入っていて、もうもう猛烈に甘くフルーツ臭く、それ単体ではとても食べられなかったが、同じくお土産として持って帰ってきてくれたプーアル茶を淹れると大変素敵なおやつになった。最後お皿に残った外回りクズまで指で集めて食べ、プーアル茶は役者だな、という思いを新たにした。これが煎茶だったり番茶だったりしたらきっとだめだったはずだ。なんか、同じ中国茶でもウーロン茶ではこのお菓子を御すに力不足であろう。全くお茶に詳しいわけではないど素人の所感だが、ウーロン茶は万人向けの、すべての評定が三のお茶だという気がする。スタンダード。だからこそ焼酎割ったり、ジン割ったりにも使えるんじゃないのか? なんつーかこう、どこも尖ってないというか。それにひきかえプーアル茶はどうだ。これは好き嫌いが分かれそうな味である。けったいな味がする。誰もこれで酒を割ろうとは思わないだろう。個性がきつすぎる。


 昔、同じ裏千家の社中のお稽古仲間と連れ立って中国茶の会に行って、そこで特級のプーアル茶を頂いたことがある。お茶を淹れてくれた亭主の後ろには、EPほどの大きさで、そこそこ厚さもある円盤状のお茶の包みが積まれていた。わたしの記憶も怪しいものだが、たしか亭主は、プーアル茶はこうして円盤状の塊にしてロバだかヤギだかの背にくくりつけ、雲南の峻険を縫う細道をたどって運ばれてくるのだ、と説明した。だから、一番外側はケモノ臭い、とも。そのプーアル茶は色もものすごく濃く、まるで上等のウィスキーのような味がした。三杯飲んだら酔っ払うんではないかと思った。その日一緒だったマミちゃんは、じつはこのときまでアンチプーアル茶の人だったのだけれども、一口飲んでケタケタ笑い出し、一呼吸置いて真顔で「おいしい」と言った。ほんとうに、めちゃくちゃ美味しかったのである。

 わたしは、その極上プーアル茶のことを思い出しながら安もんのウィスキーを飲む。あー、あれまた飲みたいなあ。でもジューマンエンくらいするって言ってたなあ。誰かお歳暮に呉れへんかなあ。ぐびぐび。

 そんでしばらくして、エイドリアーン! と叫んでいる自分を発見する。

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