いとこのしゃべり方


 正直なところくるりにもキセルにも全く興味はないのに、彼らのおしゃべりを聞くためだけにラジオ番組を聴いたりする。αステーションで。


 αステーションというのは京都のFMラジオ局である。今はラジコがあるから、少しばかりおカネを出しさえすれば日本全国どこででも聴ける。四条の、ココン烏丸にスタジオがある。余談だが昔、ある記念パーティーをするのにわたしが会場手配役になって、ここの二階のダイニングを押さえたことがあったのだが、ツメが甘いというか、計画能力が足りないというか、ビル一階にある人工滝の音が進行上の大きな妨げになるという致命的な問題に会開始の瞬間まで全く思い至らず、司会役になってくれた友人Yをして応援団長のごとく終始声を張り上げしめるという余計な労力をかけた苦い記憶が想起される。(Yはその後咽頭ポリープの手術をした。)(いや多分関係ないけど。)(多分。)


 とにかく、そのαステーションでは、岡崎体育やヤバイTシャツ屋さんも番組を持っていて、こちらに関しては音楽も好きだけれど、やっぱり体育くんとこやまくんのしゃべり方がいい。すごくいい。


 一番いいのはブラックマヨネーズのよっさん、吉田敬のしゃべり。ブラマヨはM-1で勝ってからこっち全国区の人気コンビになったので、しょっちゅうテレビで見られるようになった。その昔、ABCラジオで夜中にやっていた「ズボリラジオ」を、わたしはひとかたならず楽しみにしていた。日曜の夜、ズボリを聴いて、その次の番組だったサイキックの録音をセットして、寝たのだった。ズボリ最終回を録ったMDが今も実家のどこかにあるはずである。もちろん小杉のしゃべりもいい、吉田との掛け合いは素晴らしい、でも吉田の方がやっぱりいい。


 何がいいのかと言うと、京都のおとこのしゃべり方がいいのである。別に、はんなりしていてどうのとか、そんなことではない。しかも、「京都」と言っても、わたしが今挙げた人たちは、「洛外」出身者がほとんどである。体育くんとこやまくんは宇治。そしてよっさんは伏見。


 わたしには二人、従弟がいる。母の妹の、息子たちである。わたしよりも四つ下と六つ下の兄弟で、それぞれが就職するまでずっと伏見に住んでいた。ママ(祖母)の家も、すぐ近くだった。

 下の子のお産の後、叔母が大きく体調を崩した時期があって、ひと月ばかり、うちで二人を預かった。わたしは小学一年生で、学校から帰ると従弟たちが毎日いて、とても嬉しかった。わたしは上の子と熱心に遊び、下の子のおしめ替えを手伝った。二人はとてもかわいかった。

 やがて叔母も恢復し、二人は伏見に帰って行ったが、その後も折々に兄とわたしと従弟たちはママの家に集まって、食卓の椅子を繋げて並べて電車ごっこをした。地蔵盆で踊った。桃山城に行った。下の子は、わたしたちが帰る段になると、「帰ったらアカン」と毎回泣いた。


 従弟たちは小さいものと思い込んでいたが、自分が大きくなれば相手も当然大きくなっていくのである。小学生の間はどうとも思わなかったが、二人が中学生高校生になる頃には、顔を合わせるたびに、

「うわあ、大きなってる」

 と驚いたものだ。いまだに会うと、

「大人になってる……あっちゃん(上)はご飯口に入れたまんま食事椅子で寝てたのに……けんちゃん(下)なんか、赤ちゃんやったのに……」

 と愚にもつかぬ感慨を抱く。いっつも。


 従弟たちのしゃべり方は、大阪のおとこのそれとも、神戸のおとこのそれとも、奈良和歌山滋賀のおとこのそれともちょっと違う。関西出身者以外にはほとんどわからないだろうが、わたしは京都の、というか京都の南の方の、おとこのしゃべり方が一番いいと思っている。従弟のしゃべり方と同じだからだ。従弟たちはかわいい。いまだにかわいい。自分もオバハンになったから、従弟たちももはや十分オッサンなんだけれども、世間にはまだ「にいちゃん」と呼んでやってほしい。わたしは、二人のことを実の弟のように思っている。


 電車に乗ったときなんかに、

「オレ、昨日テツオから千円借りてんかー、ほんでなー」

 などとしゃべっている若い子がいると、あ、京都の子や、と、内容がどんなにくだらないことであってもとりあえず全部盗み聞きする。そして、内容がどんなにくだらないことであっても、ちょっと和んで、うちに帰る。

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