知らずに殺してしまった未来の僕

レディ

第1話

 人生はいつも決断の連続。決断、決断、決断。


仕事がいつもより少し早く終わっただけで、

今日は真っ直ぐ帰ろうか?

本屋でものぞいてみようか?

歴史物、ハードボイルド、SF、エトセトラエトセトラ………恋愛ものはいいや。

ドトールとタリーズどっちに行こうか?


そして、あっちにすれば良かった、こうすれば良かった、なんでこっちに来ちゃったんだ、俺のバカ。でも時すでに遅し。自分の歩く道を多少の修正を重ねつつ、それでも前に進むしかない。たまに罵倒し、たまに慰め、そして僅かな成功に小躍りしながらまた、決断の時が訪れる。


もしも、あの時、こうしていれば。

今とは違う今がある。

そして、あの日、あそこに行かなかったら。

今とは違う今がある。

今とは違う俺がいる。


今とは違う俺とは、どんな俺なのだろう。

そして決断の向こう側に追いやられた、幻の未来の俺は何千人、何万人、何億人、何兆人、いやもっといるかもしれない。

幻の俺もまた決断を重ねて行くのだから。


宇宙規模の未来を犠牲にして今、タリーズのレジの前でのうのうとアイスコーヒーにするかホットコーヒーにするかを考えている俺はまるで、無邪気な大量殺人犯ではないのか。


でも、失った未来は決断を下した時点でもうただの夢物語だし、そもそも殺したと言っても俺自身、血の一滴どころか痛みさえ無い。

死人は幻、幾通りの未来は夜伽話、これからも築き上げ続ける死体の山を乗り越えて、生きて行くしかないのだ。消された未来に一輪の花でも捧げながら。


ホットコーヒーを飲みあたたまった体と、少しだけ軽くなった心で帰路につく。

あ、本屋寄るの忘れた。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

知らずに殺してしまった未来の僕 レディ @lady

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る