夢をもう一度、明日へもう一歩

おとうさん、月にはうさぎさんがいるって、本当?

うさぎさんはいないよ、そう見えるだけさ。

どうしてそう見えるの?

月にはクレーターっていう穴があってね、その影がうさぎさんがお餅つきしてるように見えるんだよ。

へぇ、じゃあやっぱりうさぎさんはいるんだね!

え?

大きな大きなうさぎさんがいるんでしょう?

そうか、そうだね。

すごいすごい!


嬉しそうに飛び跳ねる娘は、まさにうさぎそのものだった。

この話を聞いたら、君はなんて言うだろうか。

それでも、うさぎはいないと言うだろうか。


ねえお父さん。

なんだい?

私、歌手になりたい。

歌手?すごいなぁ。

冗談じゃないから。お母さんにはずっと言ってたの。

まあ、夢を持つことはいいと思うよ。

何よその言い方。

否定はしてないだろう?

叶えられないだろうけどって言ってるようなものじゃない。

そんなつもりは…

自分が叶えられなかったからってそんな言い方やめてよ!

なんだって?

お母さんから聞いた。

じゃあ分かるだろう。夢は時に人を傷つけるんだ。

違う。

違うって?

お父さんのは夢を持ったからじゃなくて、諦めたからでしょ?


娘の言葉で気がついた。

自分が受け入れたくなかったことを、夢の所為にしていたことに。

自分が恥ずかしかった。憎く、醜く感じた。


いいんじゃないの?この子もここまで言ってるんだし。

…そうだな。


娘は夢を追った。

僕のこれからの人生は、彼女の夢を支えることだ。


そう思っていた。


あなたも、もう一度追ってみたら?

追うって?

あなたの夢よ。うさぎ、探しに行くんでしょ。

いやぁ、もうそれは…

今からでも、遅くないわ。きっと。

でも、もう君を傷つけたくない。

誰があなたに傷つけられたって言ったの?

え?でも。

私は私に負けただけ。その所為であなたを夢から遠ざけたこと、すごく後悔してる。

もう一度、やってみない?私も、うさぎが本当にいないか、真実が知りたい。

…できるかな。

きっとできる。あなたは、もう一歩前へ進むべきよ。


君と交わした約束。

あの日語った夢。

叶えられずとも、

もう一度、目指せるだろうか。

わからないけど、

僕は、今の自分よりもう一歩前へ進みたいと思った。


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月のうさぎ 月満輝 @mituki_moon

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