夢やぶれて

十七連勤の最終日、サービス残業を終え、帰りにコンビニによった。

月が綺麗だった。

家に帰りつき、テレビをつける。

どこも年末特番ばかりだ。

溜息をつき立ち上がると、よろめき、棚にぶつかってしまった。

すると、棚からたくさんの便箋が落ちてきた。

一通目以降、一度も開いていない手紙。

おもむろにその中の一つを拾い、中の手紙を見た。

そこに書いてあるとこに、言葉を失った。


「今日、宇宙飛行士を辞めました。」


信じられなかった。

急いで別の手紙を拾い上げ、中身を取り出した。


「もうすぐ、試験ですね。きっと合格できる。応援しています。」

「結果はどうでしたか?連絡待ってます。」


「元気ですか?最近は寒くなってきたので、体調に気をつけてください。」


手紙には、僕を励ます言葉や、近況を尋ねる内容ばかりだった。

自分のことは語らず、ただ僕を待っている。

次から次へと手当たり次第に読み漁る。

時期が交差して、いつの話をしているのかわからない。

涙が溢れ出てきていることを気にする間もなかった。


「今月は誕生日ですね。おめでとう。」

「おじさんとおばさんは元気ですか?お歳暮を送ると伝えてください。」


他愛のない話。

あの頃していたような、大人を真似た世間話。

懐かしかった。

そして、

まだ真新しい便箋をひとつ、手に取った。


「宇宙飛行士を辞めることにしました。」

「君との夢を叶えられないことを許してください。」

「一人じゃ、寂しい。」


最後の一文が震えていた。

いつも最後に書いていた「連絡待ってます。」の文がなかった。

今月の頭に届いた、一番新しい手紙を取った。

送ってきたのは、彼女ではなかった。

「連絡が遅くなってごめんなさい。娘は、」


最後の文字が涙で滲んだ。

だが、はっきり見えた。

僕は、彼女の夢を奪った。

夢だけでなく、彼女の人生を奪った。


君は真っ直ぐだった。

いつでも正直で、前向きで。

僕の勝手な夢を、一緒になっておってくれた。


月が厚い雲に隠れ、部屋が暗くなった。

まるで、僕の心を表すように。

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