24.『咲いた花、そして空の鳥へ捧ぐ物語』

「丁度いい。吾輩に聞かせてもらいたいものだ。キミが見てきた「19世紀」に興味がある」


 訪れた骨董品店で偶然出会った「人形」が語ったのは、突拍子もない話ばかりだった。

 ボクが魅せられた本と関わりがあったのは、ある意味必然とも言える。……わざわざ、この足で、この不自由な体で、「当時を思わせる調度品」を探していたのだから。


 それに、その人形我が友にとって、ボクが好んだその物語は比喩でもなんでもなくだったのだろう。……魂が惹かれあったようにすら思えて、感慨深い。


 ボクはその後、持病の発作で呆気なく命を落としたけれど、だからこそ「遺したかった」気持ちなら痛いほどわかった。

 ……ボクも決して、満足のいく死ではなかったからね。




 たとえマイナーな物語だとしても、孤独や傷を抱えたクロードの、太郎の、……そしてボクの、手にしたあらゆる人々の慰みや道しるべとなったのなら、彼らの苦悩も無意味ではなかった。……そう、ボクは思う。もしかしたら翻訳家の赤松や、キミの弟分……レヴィ・アダムズくんにとってもそうだったかもしれないし、他に惹かれた読者だっていただろう。


 だから、カミーユ。キミが描くことを選んだのは決して間違いじゃない。当然、思い悩む道だ。険しく、苦しい道のりだ。……けれど……けれど、そこにキミの魂が、彼らの「真実」のように宿るとするなら、それほど素晴らしいことはない。

 ……まあ、ボクは語ったそばから内容を忘れてしまうのだけれどね!ちゃんと語れていたかは、実はあまり自信が無いんだ。


「……そう。とにかく、伝えたいことはわかったかも。ありがとう、サワ」


 迷いの晴れた表情で、友人はようやくベッドから身体を起こした。

 まだ重い足取りでアトリエに向かい、それでも躊躇うことなく絵筆を握る。描きかけのキャンバスが、彼の抱えた「真実」によって彩られていく。

 ……まだ彼には時間が残されているし、むしろこれからが踏ん張りどころなのだろう。


 だからこそ、この物語が救いになればいい。


 その命が無意味でも、その生がどれほど悲惨でも、ボクはキミ達の誕生を、ひいては生存を、……そして、その行く末を祝福しよう。


 ボクもかつて、その想いに救われたのだから。


 願わくば、キミの向かう未来が、幸運で満たされるように。満足のいく死を迎えられるような、輝く生であるように。

 ……不運に手折られても、何度でも咲き誇り、羽ばたくことができるように。




 その「真実」が、いずれ、誰かの祝福となるように。

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