第8話 俺は一般人であって、決して誘拐犯ではない。

「おい!ツムギいるか!?ちょっと来てほしいんだが!!」


家のドアを開け、いつもの声量より遥かに大きめな声で彼女を呼ぶ。


「いますし、そんなに大声出さなくても聞こえてま………」


いかにも説教タイムに入ろうとして面倒くさそうにこちらにきて少女を見た途端、言葉を失い顔が真っ青になった。


「その少女……まさか、誘拐……!?」


『まさか、誘拐!?』じゃねえよ。

なんでまず最初に俺が悪いヤツみたいな解釈してんの??


「ちげぇよ。それに、よく見ろ。怪我してるだろ?」


ツムギは少女の怪我を見ると、傷が思ったより浅かったのか、それとも俺が誘拐してきたのではないことを知ったということに安堵したのか、ふう。と一息つく。


「とりあえず、治癒魔法かけときますね」


「おう、助かる」


「別に貴方の為じゃないです。この子の為ですし。あと、邪魔です!」


「え?邪魔なの?なんでも手伝うんだけど」


さりげなくツンデレのツンを聞いた気がするが、こんなやつデレるどころかツントゲだわ。このまま刺さって死んでまうわ。


「じゃあ、また薬草採って来てください」

(訳:はよどっか行け。)


……なんか嫌われるようなことしたっけな…


別に、こんなやつに嫌われてもいいんだけどもな!


「へいへい。じゃあいってくるわ」


仕方なくまた森に出て、先程走ってきた場所を今度はゆっくりと進んでいく。


空っぽになった籠を背負って。



森の木からちらりと見える太陽を見る。


この世界が、日本と同じなら現在時刻は大体13時といったところか。


小さい頃、家の鍵を忘れてほぼ一日中空を見ていたことがある。親が帰ってきたのは20時とかそこら辺。


その経験のおかげでこんなどうでもいい知識を得ることができた。

てか、なんでそういう日に限って学校は短縮授業なのだろうか。永遠の謎である。



…まぁ、俺学校通ってないんだけどね。


どうでもいい過去を思い出し、片手に薬草学の本を持ちながら薬草を採る。




「…ぎゅるるる…」


そういえば、もうお昼じゃんか。


ごく普通に生活していたら今頃が昼食の時間だろう。


……薬草結構採れたし、疲れたし。帰ろ。


これがゲームであるなら、そろそろモンスターとのエンカウントもあっていいはずなのだが、そんなことは一切なく無事に家にたどり着いた。


…ちぇっ。


「ただいーーー」


ドアを開けるとそこには、目覚めた小さな少女が立っていた。



「あぁ、おかえりなさい。誘拐犯さん?」


「いや、だから誘拐犯じゃねえって!」


流石の俺でも幼女を誘拐したロリコンと間違われると心が痛い。


「はじめまして。ゆうかいはん?さん」


初対面の人に対していきなり犯罪者扱いとは、この子一体どんな教育を受けてきたんだ!


「あはは…誘拐犯じゃないよ?蓮って言う、ちゃんとした名前、あるからね?」


必死の笑顔でチビ……じゃなかった、少女に言う。


「……れん?ゆうかいはんという名前じゃないんですね」


……この子、俺の名前が誘拐犯だと思ってたのか。ツムギ、一体この子に何を教えたんだよ。


「えっ!?誘拐犯じゃないんですか」


ツムギは迫真の演技で嘘をつく。


「じゃあ、君が転送させた引きこもりは一体誰なんでしょうかね?」


「……さぁ?そんな人いましたっけ」


……ホントこいつ、許さん。末代まで祟るたたる


「…………………………」


ギロリとツムギを睨む。


「アハハ……。おやっ、こんな時間ですしお昼にしましょうか!そうしましょう!」


慌てて食器類を取りに逃げていった。


仕方なく椅子に座りちっこいガキ、もとい少女の方を見る。


「俺の名前はさっき教えたけど天野蓮。で、君の名前は?」


きちんと相手の名前を聞く前に自分の名を名乗る。やはり、俺は紳士だな。うん。


「わかんない」


「……は?」


そう。この少女、何もかもが不明なのである。

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俺は転生しても、仲間なんていらない。 斑目紫音 @madarame_shion

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