乗り遅れたおばあさん

小川貴央

第1話 人として大切なもの

雪のチラつく寒い冬

昼下がりに見知らぬお婆さんが

息を切らしてバスを追い駆けてた

バスは待たずに走り去った


見兼ねて声を掛けた~

「ほら、乗りなよ!」

お婆さんは感涙しながら乗り込み

「すみません、駅までお願い出来ますか」

病院へ受診するのにバスに遅れると電車に

間に合わず行けなくなってしまうとのこと。


慌てなくてもバスより早く駅に着いたら、

お婆さんは何やら小銭をかき集めだした。

「何やってるの?」

「ほんの気持ちです、お礼に」

「そんなものもらったらタクシーになるでしょ、

早く電車に乗って!」


お婆さんは何度も頭を下げ、お礼を言いながら

ホームへ入って行った。

それを見届けると、気持ちがとても温かくなった。


会社に着いて大事な会議に遅刻して物凄く上司に

怒鳴られた。


だけど会議に遅刻した事より、見ず知らずだけど

お婆さんが病院に間に合ってくれた、その事の方が

大事に思えた。

だから僕は一切何も言い訳をしなかった・・・。

後で上司、先輩、社長からの恫喝と始末書が待っていた。


数十年も経った今もたまに寒い冬の昼下がり、

心が温かくなった記憶が甦る。

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乗り遅れたおばあさん 小川貴央 @nmikky

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