最終話 春は未来への始まり

 魔界にある宮殿の自室にてベッドに横たわるアイリーンに寄り添う龍海。

 「安静にしてくれよな、仕事は俺が頑張るから」

 「はい、龍海さんからいただいた素敵なホワイトデーのプレゼントですから

元気な赤ちゃんを誕生させますよ♪」

 龍海の言葉にアイリーンが自分の腹に手を当てて答える。

 「ちなみに、お義母様達も五人目をご懐妊でマルトリアさん達もおめでたです♪」

 アイリーンがとても美しい笑顔を見せる。

 「ありがとう、アイリーン♪」

 「こちらこそありがとうございます、龍海さん♪」

 春休み、百華龍の日本支社へと赴いて準備をしていた龍海達。

 四月になりアイリーンが龍海の子を身籠った事で産休に入った。


 こうして、ヘルグリム帝国に何度目かのベビーブームがやって来た。

 二人の部屋に進太郎が入って来た。

 「あ~、おめでとう二人共」

 進太郎が気不味そうな顔をする。

 「父さん、こういう所も俺は父さんの後を継いだよ」

 龍海が進太郎に語りかける。

 「本当に俺に似すぎだよたっくん」

 進太郎が苦い顔で言う。

 「本当にすごいのは母さんかも?」

 龍海がリーファの事をつぶやくと進太郎は同意した。

 「うふふ♪ ママは偉大なのよたっちゃん♪」

 進太郎の後からリーファも入って来た。

 「リーファも安静にな」

 進太郎がルンルン気分なリーファを抱きしめる。

 「はい、旦那様♪ アイリーン、最強の母になるのよ♪」

 リーファが天を指さす。

 「はい、お義母様♪ アステカの星に誓って♪」

 アイリーンがリーファに同意する。

 「いや、目指さんでいいから」

 龍海が手を左右に振る。

 

 「アイリーンは龍海も生まれてくる孫も頼むな、こちちもサポートはするから」

 「はい、お任せ下さいお義父様♪」

 アイリーンが進太郎に微笑む。

 「何というか、俺もおじいちゃんか」

 「私もおばあちゃんですわ旦那様♪」

 リーファが相槌を打つ。

 進太郎、三十台で祖父となる。


 「橋野先生も、仲間の孫を取り上げる事になるとはって笑われたよ」

 龍海が恩のある医師の事を口に出す。

 「橋野先生か、本当に俺が学生時代からあの人には頭が上がらんよ」

 進太郎も戦友であり世話になってきた医師を思い出す。

 「橋野先生の病院の方には連絡して診察やベッドの予約はすませてありますわ♪」

 リーファが笑顔で答えるとアイリーンはキラキラと輝く瞳で流石はお義母様♪ と

尊敬のまなざしをし龍海と進太郎は嫁には勝てねえなと言う顔になった。


 数日後、このベビーブームで龍海と進太郎は、ヘルグリム帝国と交友のある者達からまたお前か! と言うような心ある祝福を受けていた。

 

 「父さん、家がギネスブックに載るんだよね?」

 龍海が進太郎に尋ねる。

 「載りたくなかったよ、世界一子沢山なヒーローでデーモンブリードがギネス認定だよ!」

 ギネス認定された事で、進太郎は敵や友人達から子作り王の称号を付けられて言われる度に皇帝だと訂正を要求するという芸を身に付けたのであった。


 新たな命の誕生の予定など変化がありつつも、悪と戦ったり学生生活をしたりと日常を営むヘルグリム帝国。


 時は流れ、百華龍の仕事がオフで久ぶりに東京を訪れていた龍海のスマホが鳴る。     

 ヴィラン対策室のヒーロー用の連絡アプリの起動音だ。

 「お台場にヴィランが出現? 財団U製の巨大ロボットも一緒だと!」

 新宿の人通りの少ない場所へ移動し変身する龍海。

 それでもドラゴンブリードへの変身を目撃した人達が騒ぎだす。

 人々のざわめきも気にせず飛び立つドラゴンブリード。

 

 お台場の沿岸では、ヒーロー達とヴィランの戦闘が始まっていた。

 「お、来たな子作り皇子♪」

 先に戦っていたレッドブレイズがドラゴンブリードの元へ来て囃し立てる。

 「勘弁して下さいよ師匠、ていうかこっち来てないで戦いましょう!」

 レッドブレイズに呆れるドラゴンブリード。

 「財団Uめ、懲りずにロボット出して来やがったな」

 改めて空から敵を見ると、昭和アニメかと言うようなレトロな二十m程の大きさをした全身漆黒の非武装に見える人型巨大ロボット。

 「財団U,また裏に回ってヴィラン達に巨大ロボットをレンタルする事業を始めたみたいだな」

 レッドブレイズがドラゴンブリードに告げる。

 「とんだブラック企業ですね、ギュンターハンマーッ!」

 異母兄弟のギュンターを召喚し、紫色の巨大なハンマーへと変形させるドラゴンブリード。

 「いや、兄弟武器にしてぶん回すお前も進ちゃんゆずりで大概だがな♪」

 レッドブレイズの叫びはスルーするドラゴンブリード。

 敵の巨大ロボットの上陸を沿岸部のヒーロー達が飛び道具で抑えている間に、ハンマーを振り敵ロボットの顔面をぶっ叩いたっ!

 その衝撃で敵はよろけた所に、レッドブレイズの炎の縄をロボットの関節部に巻き付けられる。

 「行くぜギュンター、ホームランだ!」

 『たっちゃん、俺ラガーマンなんだけど?』

 ギュンターのツッコみを無視してドラゴンブリードがハンマーを振るい巨大ロボットを空の彼方へと殴り飛ばして爆散させる!

 「……ふう、汚い花火だぜ」

 「あ~、ヴィラン生け捕りじゃねえから報酬でねえなありゃ」

 決めたと思っているドラゴンブリードと冷静に状況を見るレッドブレイズ。

 その言葉通り、ドラゴンブリードに報酬は振り込まれなかった。


 一方、財団Uの秘密のアジトでドラゴンブリードの戦闘の様子をモニタリングしていたドクターU は大笑いしていた。

 「ひゃっひゃっひゃ! やってくれたのう、だがこっちはデータが取れたわい♪」

 ヴィランもヒーローもデータ取りのテスターとしか見ていないドクターUは室内のコンユーターを操作して次なる計画を立て始めた。


 ヘルグリム帝国を含むヒーロー達と、財団Uのいたちごっこは続く。

 ヒーロー、学生、皇太子に加え父親と言う草鞋も履く事になった龍海の戦いと青春はまだまだ終わらないのであった。



 龍海の青春時代の記録を基にしたドラマ『ドラゴンブリード』のキャッチフレーズはこう書かれている。

 

 宿命の皇子、家族を纏いて悪を討つ!!


 と、そして龍海が進太郎から受け継いだ力と想いは彼の息子デーモンブリード二世や孫娘にあたるサクラブリードを経て曾孫であるデーモンブリード三世こと繋太郎けいたろうに受け継がれ新たな形を得る。


 龍海の時代から八十六年、進太郎の時代から百年余り後の時代。


 地球でのヒーローとヴィランの戦いは続いていた。


 いつの世も邪悪な野望を果たさんとする者と、立ち向かう者達はいる。

 邪悪に立ち向かう者の末席に、新たな英雄が加わろうとしていた。


 「は~~~っ、久しぶりに来たよ日本の海~っ♪」

 頭に山羊の角を生やしたピンク髪。

 眼鏡を掛けた温和そうな顔立ち。

 白いパーカーにブルージーンズと言うラフな服装の美少年が海辺で叫ぶ。

 その海辺はかつて少年の曽祖父達が見た青い海。


 「この海と空と大地を、ご先祖様達が地球のヒーロー達と守って来たのか~♪」

 息を吸い宇和海の潮の香りをかぐ少年、名は繋太郎・赤星・ヘルグリムけいたろう・あかぼし・へるぐりむ


 龍海の曾孫、進太郎の玄孫に当たるこの時代のヘルグリム帝国のプリンス。

 春から星立ジャッジメント学園の中等部に通う為に、魔界を出てやって来た。


 「良し、デビュー前に変身の練習しなきゃな! 魔界まかいガンを出してっと」

 繋太郎がパーカーの内ポケに入れていたゲームセンターの銃型コントローラーに似た銃身の横に蝙蝠の翼が付いた黒いリボルバー型のガジェット、魔界ガンを取り出す。

 繋太郎がガチャりと弾倉を動かす。

 「銃口は一応上へ向けて、魔力集中っ! 変・身、ドーンっ!」

 繋太郎が叫ぶと銃からも軽快なノリな音楽が流れ女性ボイスで、ドンドンドンイッチャオ~♪と歌声が発せられる。

 繋太郎が銃口を上に向けて引き金を引くと、漆黒の弾丸が射出されると同時に

バラバラと兜やら鎧のパーツが繋太郎の身に降り注ぎ彼に装着される。


 頭部に山羊の角を生やした悪魔の騎士の如き鎧兜を纏った追加装甲を纏った

戦隊ヒーローの様な黒い戦士へと彼は姿を変えた。

 変身が終わると同時に、魔界ガンからハイテンションなノリでデ~~モンブリ~~~ッド、プリンス・オブ・ヘルグリムエンパ~~~イアッ♪ と歌が流れて背後で虹色のカラフルな爆発が起こる。


 「魔王の力、デーモンブリード三世さんせいっ!」

 魔界ガンを左腰に納め、右掌を開いて突き出す構えを取るデーモンブリード三世。

 ビシッと決めた彼を祝うように海がザバ~ンと波音を奏でた。

 「う~ん、決まった気はするけれど後は本番でチャレンジするかな? 一緒にポーズを取ってくれる仲間とか欲しいな♪」

 一人リハーサルをして、感触を確かめる三世。

 軽いノリなのはまだ中学生だからだろうか?

 とはいえ、先祖から続くヘルグリム帝国の力と想いのバトンは彼に託された。


 デーモンブリード三世が一人悩んでいると、青白い肌をした執事服の美青年が拍手をしながら現れる。

 「流石は我がプリンス♪」

 美青年の声に振り向く三世。

 「あ、ヴォイド♪ そんなに拍手される事じゃないよ」

 家の執事に謙遜する三世。

 「そんな事はありません、この海岸にプリンス初変身の象を立てねば♪」

 ヴォイドがべらぼうな事を言う。


 「そんな、高知の坂本龍馬像みたいな」

 「プリンスには、坂本龍馬氏にも負けない偉人になっていただきたく存じます♪」

 「それは俺の努力と皆の支援が必要だよ、人に支持されてこその偉人だから」

 三世とヴォイドが主従漫才をする。

 

 「おっと、ジャッジメント学園へ向かう支度が完了しました♪」

 用件を思い出すヴォイド。

 「ありがとうヴォイド、楽しみだな地球の学校♪」

 変身を解く繋太郎、ヴォイドの後ろから一組のカップルがやって来る。

 「繋太郎~♪ そろそろ家に戻って昼飯にするぞ♪」

 カップルの一人の青年、八十年以上経つというのに若い姿の龍海。

 「繋太郎ちゃん♪ ひいおばあちゃんのプリンもありますよ♪」

 カップルの片割れはピンク髪の美女、二十代位の若さを保っているアイリーン。

 龍海とアイリーン、共に百歳とは思えない若々しさであった。

 「ひいお祖父ちゃん、ひいお祖母ちゃん♪ 今行くよ~♪」

 「私も参ります♪」

 繋太郎とヴォイドが龍海達の所へと向かう。


 この後に繋太郎が怪々戦隊マカイジャーを結成し、先祖から受け継いだ力と仲間のモンスターが変形合体した巨大ロボットのマカイザーを駆使してヴィラン達と戦いと青春の日々を送るのはまた別のお話。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 



  

 

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ドラゴンブリード ムネミツ @yukinosita

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