第47話 染め直せば?
「「染め直せば?」」
僕と香月は、つい声を
「……」
だが、そんな月並みな感想であるというのに、白殿は身を縮こまらせる。
「え? ごめん、僕、何か変なこと言ったかな?」
あわてる僕に向かって、香月が肩を竦める。
「ぜんぜん。ていうか、髪染めないと、どうして学校に来ないのかが、頭わるいうちにはぜんぜんわかんない」
「だよな」
珍しく香月に全面同意であった。
だからこそ理解できない。生じている結果と彼女の提示した原因が、どう考えても
いや、言っていることは突飛でない。突然に髪を染めた娘、それも金髪やら茶髪ならばまだしも淡い青色に染めてきた娘に対して、黒に染め直せと
わからないのは、香月の言うように、どうして学校に来ないかだ。付け加えるならば、なぜ今頃、
その疑問を解消するヒントは、白殿本人の口からぽつりと
「お父さんが、帰ってきたんです」
彼女はぽつぽつと言葉を
「そんなみっともない髪の娘を外に出すわけにはいかないとお父さんが外出を許してくれなくて」
「はぁ、それで不登校ね」
なんとも厳格なお父様だな。
「まぁ、君の親父さんの古い価値観に異論はあるけれど、髪を染め直して解決するんだったら、そうすれば?」
「うちもアングリー、アングリー」
うん、アグリーだけどね。それじゃ、怒っちゃうからね。もう面倒くさいから、細かいボケには突っ込まないけどね。
「そもそも青髪似合ってないし。零には、ブラウンカラーの方が似合うと思うんだよね。もうこの際、ショートにしちゃうとかどう?」
これを機に趣味を押し付ける香月に対して、白殿は
まぁ、かなり無責任な意見だったのは認めよう。もしも、それで解決するようであれば、こんな
さて、面倒なことに巻き込まれた。この先のメインパスは容易に想像できるのだけれども、できることならば回避したい。なんとか誘導できないかと、僕は無言の白殿に言葉を投げる。
「染め直せば、
「……」
「そうか。じゃ、さっさと家に返って、ちゃんと親父さんと話すんだな。青髪のままでいるにしろ、黒染めするにしろ、話さなければ始まらない」
「……」
僕の助言に、白殿は身を
「ふーん。そんなに青色気に入っていたんだ。意外だけど、まぁ、零がいいんだったら、いいんじゃない? さっさとパパを説得して、学校に来なよ」
「……でも、お父さんが」
「え? 何? 怖いの?」
「……」
彼女の沈黙は、雄弁であった。
「あぁ、そりゃ、髪染めたくらいで外出禁止にするようなパパだもんね。怖いよね。うーん、じゃ、堂環くん任せた」
「は?」
香月がアクロバティックに話の筋をメインパスへと展開させる。どうやら回避に失敗したらしいことを確認しつつ、僕はため息を交えて返答した。
「何で僕が?」
「だって、零が困っているんだもん。堂環くんが助けてあげなきゃ」
理由になってない。
「人様の家の事情に無暗に介入したくないんだけど」
「何で? 友達の家に入るのに遠慮する必要なんてないでしょ?」
こういう無遠慮な奴の考えってホント理解に苦しむ。
「いや、親子関係とか一番デリケートな問題だろ。僕なんかに解決できるとは思えないんだけど」
「できるできる。堂環くんなら、ちょちょいのちょいだって」
え? 根拠は? ソース明記した上でレポートにして提出してほしいんだけど。
「買い被り過ぎだ。親子関係の改善なんて僕には無理。そもそも僕は、人間関係を煩わしいと思うタイプなんだよ。不登校って時点でわかるだろ。そんな僕に、人間関係の破壊ならばまだしも、改善は無理だ」
「わかってないな。今、私は無理かどうかなんて話をしてないんだよ」
香月は、大げさにため息をついてみせ、僕の方に向けてシュバッと指をさした。
「できるかできないかじゃなくて、するかしないか。やりたいかやりたくないか。つまり、堂環くんが何をしたいかだよ」
それから、香月は、思い出したように一度鼻を鳴らして、
「つまりさ」
ともう一度述べてから、ぐいと笑みを深めた。
「堂環くんは何がしたいんだい?」
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