第41話 親父って母さんのどこに惚れたの?
「なぁ、親父って母さんのどこに惚れたの?」
「ん? 顔だが?」
何の迷いもなく即答する親父は、夕食後のコーヒーを飲みながら、タブレットPCで本を読んでいた。ちなみに、父は数年前まで紙信仰者だったのだが、母から誕生日プレゼントにタブレットPCをもらったことを契機に転向した。いや、そんなことはどうでもいい。とりあえず、聞こうか聞くまいか悩んだ息子の5分強を返してほしい。
「どうした? 好きな子でもできたのか?」
「いや」
「青髪の子か? 巨乳の子か? ははは、父さんはどっちでもオッケーだぞ!」
「うるせい」
父のうざ発言にげんなりしながら、僕は適当に話を継ぐ。
「それ、母さんは怒らなかったのか? 女子は、外見で判断されるのは好きじゃないらしいぞ」
「何だ、そりゃ?」
父は、一度眉間に皺を寄せ、コーヒーを一口啜って笑った。
「ははは、そんなことをあの子達が言っていたのか? いやぁ、青いな。ブルースカイだな!」
意味がわからん。
「だいたい外見以外の何で判断するというんだ? 俺達はエスパーじゃないんだぞ。普通に接していて内面なんてわかりゃしないんだよ」
何て身も蓋もないことを。
「それに、外見は内面の現れだぞ。細やかなのか、粗暴なのか、空気読めるのか、読めないのか、内向的なのか、見栄っ張りなのか。そのくらいならわかるだろ」
そりゃ、そうかもだが。
「顔はもっと雄弁に語るな。おまえは、顔なんて生まれ持ったものだと思っているかもしれないが、そいつは違う。顔ってのは作られるもんだ。それまでの人生が刻まれている。怒ってきたのか、笑ってきたのか、それとも無表情で過ごしてきたのか。順風満帆だったのか、紆余曲折あったのか。優しいのか、冷たいのか。顔さえ見ればたいていのことはわかる」
それは、あまりに言い過ぎている気がするけど、営業職で対人関係を生業としているこの男の言葉を、単なる壮言と切り捨てることはできない。
「昔から言うだろう。心技体と。あれは、心と技と体をそれぞれ鍛えろという意味じゃない。それらは一つのものだということだ。技と体の出来は自信に繋がる。心と体が強ければ技は磨かれる。心と技が修練されれば体は自ずと鍛えられる」
それは意味がわからないし、親父くさいし、ついでに、説教くさい。
「つまり、外見から受ける印象は内面と大して差がない。仮に付き合ってから、外見と内面の印象が違ったという奴がいたとしたら、そいつは単に見る目がないと言わざるを得んな」
ドヤッと、父は自信満々の笑みを向けてきた。結局のところ、内面なんて見ればわかるだろ、と初めに否定したエスパー染みたことを述べただけに思えたが、この男はおそらく実践しているだろうから、何も言い返せない。これは、父だけが有する特殊スキルなのか、大人なら誰でもできる年の功なのか、わかりかねるのだけれど。
「で、母さんは印象通りだったわけ?」
まぁ、聞くまでもないか。母さんは見た目通りの性格をしているし。
僕の単純な問に対して、父は、にんまりと笑みを深めて、自信満々に告げた。
「もちろん印象以上に決まっているだろ」
こんな恥ずかしいことを臆面のなく言い切れる男が、自分の父でさえなければ、もう少し尊敬できたかもしれない。
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