第30話 おっぱいを揉めるのであれば、僕は魔王にでも悪魔にでもなろう

に落ちません」


 せっかく相談に乗ってあげると言っているのに、白殿は実に不快そうな顔をこちらに向けていた。


「あなたが、何の見返りも求めず、なんてありえません。いったい何を企んでいるのですか?」


 人聞きのわるい。

 いったい僕を何だと思っているんだ。


「別に何も企んだりしていない。クラスメイトが困っていたら助けるのは当然だろ」

空々そらぞらしい。これほど空虚な言葉もないでしょう。国語が泣いています」


 そんなスケールのでかい話はしてねぇよ。


「そこまでおかしくもないだろ。何だかんだいって、君らの相談に乗ってあげているし、対価をもらったこともない。結果的には、何の見返りも得ずに相談に乗ってあげているじゃないか」

「それは結果の話であって、経過は異なります。あなたは、事あるごとに対価としてを要求してくるじゃないですか」

「ちょっと待て。君、その言葉の使い方は誤解を招くぞ」

「いいえ、間違っていません。あなたは、私達に何度もしてきました。これは揺るぎのない事実です」

「性行為は強要してない! いや、広義では含まれるかもしれないけれど、一般的に、それは性交のことであって、そんなこと、君らに要求したことないだろ」

「性犯罪に該当するという意味では同じでしょう。恥を知りなさい」


 何か、今日、当たりがきついんだけど。


「あの、その、杏ちゃんも、ちらっと言っていたんですけど、何かなことを要求されるんでしょうか?」

 

 僕と白殿のやりとりを聞いていた真藤が、何やら不安そうに尋ねてきた。そりゃ、こんな話を隣でされていれば不安にもなるだろう。彼女を落ち着かせるために、僕はなるべく穏やかな口調で返答した。


「いや、全部、白殿と香月の妄想だ。自意識過剰な被害妄想だ。僕は紳士だから、そんな不純な気持ちで相談を受けたりしない」

「そ、そうです、よね」

「そうだ。まぁ、ただ、何の対価を支払うこともなく相談するのは心苦しいのも、よくわかる」

「え? いえ、別に」

「そうだろう。心苦しいだろう。は人の基礎だからな。その心苦しさ、僕にはよくわかる。そこで、まぁ、僕は、決して対価を望んでいるわけではないのだけれども、君がどうしても対価を支払いたいといのであれば、そうだな」


 僕は、にこりと笑って、さらりと告げた。


「おっぱいを揉ませてはくれないだろうか」


「「……」」


 何でだろう。

 空気が凍ったんだけど。


「え? えっちなことはしないって、さっき言いましたよね?」

「あぁ、そんなことはしない。そもそもえっちとは変態の頭文字から派生したと言われている。そういう意味でいえば、僕は変態的な行動をするつもりはなく、ただ、君のおっぱいを揉むだけだ」

「それを変態と言うんじゃないでしょうか?」

「いいかい? 変態というのは、異常な性癖せいへきのことを指す言葉だ。しかし、おっぱいを揉みたいという情動は決して異常とはいえない。むしろ男子高校生の性的な情動としては、健全だといえる。つまり、おっぱいを揉むという行為は、えっちではない」

「そ、そうなんでしょうか?」


 あ、この娘、ちょろいな。


「でも、不純では、あると思うんですけど」

「いや、僕は実に純粋だ。不純というのは、様々な雑念にまみれた状態のことを言うのであるから、そういう意味で、僕の心は紛れもなく純粋。といって過言でない。ただただ、純粋におっぱいが揉みたい」

「純粋にと、言われましても」


 真藤は戸惑っていた。拒むでもなく、受け入れるでもなく、どう判断すべきか。それは、真藤自身の考えと、僕の意見をに捉えているということ。本来であれば、損得や嗜好しこうによって意見に優劣をつけるものだ。しかし、盲目的な平等教育により、昨今の学生は、優劣の付け方を学んでいない。彼女もその一人であり、いわゆる、典型的な優柔不断。


 この娘ならば、口八丁でなんとでもなる!

 気がする!


「騙されてはいけません、真藤さん」

 

 そんな最中、白殿が割って入ってきた。


「何やら、小難しいことを言っていますが、この男は、今、真藤さんに性的な悪戯いたずらをしたいとしか言っていません」

「待て。いちいち犯罪臭のする言葉に置き換えるな」

「正確な言葉で表現しているだけです」


 いや、だいぶ悪質に歪曲わいきょくしているだろ。


「いいですか。恋人でもない女子の胸に触るという行為は、仮に百歩譲って変態的行為でなかったとしても、悪質な性犯罪です」

「いや、僕は報酬として提案しているだけで」

「そもそも、何の見返りも求めずとか言っていた口はどの口ですか。掌返しも甚だしい。これを不純と言わずして何と言いますか」

「それは……、あれだな、口か手かどっちかに統一した方が話がわかりやすいな」

「誰が表現の添削てんさくをしろと言ったんですか。私は猛省もうせいしろと言っているんです」

「いや、言ってないと思うけど」

「だまらっしゃい」


 へーい。


「ほら、わかりましたか、真藤さん。この男の本性は、。誰かのために、なんて、そんな博愛的精神は1ミリも持ち合わせていないんです」


 いや、1ミリくらいは持っているよ。そもそも超利己主義って、それ利己主義じゃないってことだからな。


 さて、ここまでのやりとりではっきりした。

 

 白殿が邪魔だ。


 真藤は押しに弱そうだから、熱心に頼めば断れないのではないだろうか。むしろ、この娘が未だに彼氏持ちでないことが不思議だ。凄まじい美少女だし、数多の男子が彼女を狙っていることだろう。彼らの告白を真藤が断れるとは思えないのだが。もしかすると、真藤は自らの、そういった押しの弱さを自覚しており、今回のように、告白される前に潰しているのかもしれない。


 だとすれば、ずいぶんと策士であるが、裏返せば、彼女の弱さを証明している。そして、現在、その弱い彼女自身がプレイヤーとして、僕の目の前にいる。これは、千載一遇のチャンスといえる。


 が、白殿が邪魔だ。


 彼女が事ある毎に、口を挟んでくるから、本命へと言葉が通らない。まるで、姫を守る護衛の騎士である。まず、この女をどうにかしなくては、姫を攻略することなど不可能だ。まぁ、このアナロジーでいくと、僕は魔王とかそういう立ち位置になってしまうんだけど。


 いや、魔王でいい。


 おっぱいを揉めるのであれば、僕は魔王にでも悪魔にでもなろう。そして、騎士を見事討ち倒し、姫のおっぱいを我が手中に収めてやろうじゃないか!


 とすれば、やることは決まっている。


「おい、白殿」

「何ですか?」 


 僕は、ぎろりと白殿を睨みつけた。


「勝負をしよう」

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