第18話 エアホッケー

 エアホッケー


 ゲームセンター等に置かれるアーケードゲームの一種である。競技台の大きさは卓球台程度。その上に置かれたパックと呼ばれるプラスチックの円盤を、マレットと呼ばれる器具を用いて打ち合い、相手のゴールにパックを落とすゲームである。


 もちろんサッカーのようにゴールを決めると点数が入り、得点の多い方の勝ちだ。パックは、台から噴き上げてくる空気で浮いており、まるで氷の上を滑るように動くため、その速さは尋常ではない。一瞬でゴールが決まってしまう絶妙な緊迫感が、このゲームの醍醐味といえる。


 そして、これから勝負するゲーム内容である。


「いい? うちが勝ったら、勉強を教えてもらうからね!」

「君こそわかっているだろうな。僕が勝ったら、そのおっぱい揉ませてもらうからな!」


 僕と香月は、エアホッケー台を挟んで向かい合っていた。駅近くの小さなゲームセンター。その奥に置かれたエアホッケー台。中央の上部の電光掲示板に得点が表示されるようになっており、当然だが現状0対0。台全体に派手な装飾が施されており、チカチカと目にうるさい。


 勝負をすることに決まってから、次に、勝負内容を決める運びとなった。議論内容は割愛するが、まぁ、すったもんだあった結果、今、エアホッケーで勝負することに決まったのだ。


「あの、あんまり大きな声出さないでもらえますか? 恥ずかしいので」


 白殿が台の横で呆れた顔を見せる。


「正直、こんなことして遊んでいないで、さっさと勉強なさいと言いたいのですけれど」

「もう! 零はわかってないな! これは勉強するために必要なことなの!」

「絶対に不要だと思いますけれど」

「そうだぞ! 白殿! 僕達は真剣なんだぞ!」

「黙りなさい、この性犯罪者」


 だから、そんな怖い顔をするなって。


 さて、と僕達は目の前の台に集中する。エアホッケー台にコインを投入すると、3分間のゲームを行うことができる。その間の得点が多い方が勝者。もしも同じ点数ならば、もう1ゲーム。勝負がつくまで繰り返す。


「へへ、うち、このゲーム、けっこう自信あるんだよね」

「ふふ、奇遇だな。僕もだよ」


 エアホッケーゲーム。このゲームの人気の高さは、ひとえにルールの単純さ、さらに操作の容易さにある。マレットをパックに当てるだけ。適当に動かしておけば、ゲームは成立するし、勝ててしまったりする。


 そのゲームで必勝を狙うのは、なかなか難しい。香月は、そのことを理解してか、しないでか、前傾姿勢。パックを力強くヒットして、相手のゴールを狙うつもりなのだろう。


 先行は、香月。


 予想通り、香月はパックを力強く打った。

 しかし、パックはゴールへ向かっていない。

 進行方向は斜め。

 だ。

 台の両端にある壁に向けてパックを放ち、その反射を利用して軌道をわかりにくくする方法である。


 カンカンカン!


 三度の反射でゴールに到達。

 その軌道は見えていたので、僕はマレットを合わせる。

 止めるのではなく、そのまま当て返す。

 カウンター。

 パックは同軌道を沿って相手のゴールへ。

 速度は十分。

 これは取ったか?

 しかし、パックは香月のマレットに阻まれた。


「やるじゃん」

「君もね」


 香月はパックを止めて、仕切り直す。

 さすがは体育会系。その動きは俊敏で、無駄がない。動体視力もよさそうで、先ほどのパックなど上から抑えつけたほどだ。自信があると言っていたが、あながち過信とはいえないようだ。


 しかしながら、今の1プレーで香月のプレイスタイルは理解した。そして、僕は確信した。


 この勝負、絶対に勝てる!

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