第15話 体育会系というのは、どういう脳の構造をしているんだ?

 それにしても、運動をしている奴の体つきは、やはり違う。腕や足の筋の線がシャープなラインを描いており、それらの筋に支えられているおかげで、どれだけ、脱力していても軸が安定している。


 こいつと喧嘩したら負けそうだな。


 いや、女だし、さすがに勝てるか。身長は僕の方が高いし、僕だって別に運動していないわけではない。それに、ここは僕の部屋だ。武器はたくさんある。


「ねぇ、聞いてるの?」

「あぁ、やっぱり金属バットを持っている僕の方が強いと思うぞ」

「何の話?」


 体育会系女子は、怪訝そうに首を傾げる。その隣で、がため息をつく。


「その様子だと、また話を聞いていませんでしたね」

「いたのか、白殿」


 僕が所属するらしい2年3組のクラス代表、白殿零は、姿勢よく正座をしつつ、ぴくりと頬を引き攣らせた。


「えぇ、いましたよ。何ですか? 引きこもり過ぎて脳みそが溶けましたか? でしたら、病院に行くことをお勧めしますが?」

「君、最近口がわるくなったぞ」

「誰のせいですか!」


 えー、僕のせいですかー。


 まぁ、それはいいとして、だ。


「誰だい? その子?」

「ほら、聞いてないじゃないですか」


 白殿は、もう一度ため息をついてから、仕方なしといったふうに、隣に座る体育会系女子の説明を始めた。


「この子は私の友人の香月かづきさんです。あなたと同じクラスでもあるんですよ。まぁ、学校に来ていないあなたは知らないでしょうけど」


 うん、知らない。


 白殿に紹介されて、体育会系女子は、手を振った。


「うす。何かもう一回言う流れっぽいから、もう一回言うけど、うちは香月杏かづきあん。あんたと同じ2年生で、部活はハンドボール部だよ」


 香月杏は、フランクに自己を紹介したわけだけれども、そこには体育会系の色があった。まずは、同輩であることを述べ、。それから、すべての学生は、どこかの部活に属しているというの基に、自らの所属する部活名を述べている。


 典型的ともいえるな。


 友人に体育会系の者もいるので、この手の輩の思考も少しは理解しているつもりだ。基本的に、悪い奴らではない。思考回路も単純で、上下関係とノリとネバーギブアップの組み合わせ。次の行動が予測しやすいという点では付き合いやすく、相手にもわかりやすい行動を強要してくる点では鬱陶しい。


 つーか、鬱陶しい。

 正直、あんまり好きくない。


「で、ハンドボール部の香月さんが、ここに何しに来たわけ? おっぱいでも揉ませてくれるの?」

「「は?」」

「あ、ごめんなさい」


 何で女子って、そんな怖い目つきできるの?


「あなた、それ、誰にでも言うんですか?」

「いや、一応。もしかしたら揉ませてもらえるかもしれないし」

「そんな『もしかしたら』はありません。通報される前にやめなさい」

「ぐぬぬ」


 珍しく白殿が正論を述べるので、僕は押し黙らざるを得なかった。この女、自分は絶対に諦めないとか言っているくせに、人には速攻で諦めろというなんて。こういうのをダブルスタンダードっていうんだよな。


「このむすめが」

「ん? は好きですよ?」


 伝わらなかったようだ。

 少し悲しい。

 ていうか、おはスタ好きなんだ。

 何か親近感。


「仲良いね。やっぱり付き合ってんの?」

「「ありえ(ません)ない」」


 ぽつりと呟く香月に、白殿と僕は、ほぼ同じテンポで突っ込んだ。


「そういう関係ではないと事前に説明したでしょ」

「えー、でもさ。仲いいんだもん」

「『でも』ではありません。二度と言わないでください」


 まったく。体育会系というのは、どういう脳の構造をしているんだ? もしかして会話が成立していれば、その中身にかかわらず、仲がいいとでも思っているのだろうか。それとも、会話の内容を理解する脳みそがないのだろうか。


「で、結局、何の用なんだよ」


 僕が改めて問い直すと、香月は頭をかいてから、ついに理由を打ち明けた。


「勉強を教えてほしいの」

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