第8話 醜態なんて晒してません

「おまえのメンタル、わりと鋼だよな」

「どういう意味ですか?」


 翌日も、白殿は素知らぬ顔でやってきた。


「昨日は、ぼろ泣きして帰ったのに」

「泣いてません」

 

 さいですか。


「ていうか、負けたら来ない約束じゃなかったか?」

「一回勝負とは言ってません」


 子供か!


「僕が言うのもなんだけれど、そんな醜態をさらしてまでやるべきことか?」

「醜態なんて晒してません」


 あれだな。ここまでくると、記憶とか改ざんしているのかもしれないな。


「たとえ醜態を晒したとしても、そのくらいのことで私は諦めたりしません」


 あ、自覚はあったんだ。


「まぁ、好きでやっているんだったら構わないけどさ」


 いや、好きでやられても、僕に迷惑がかかるから、やっぱりやめてほしいけどなぁ。


「こんなこと……」


 僕が悩んでいると、その目前で、白殿は僕以上に苦悩していた。


、好きでやっているわけないでしょ」

「そうなの? あんまりにもしつこいから、もう性癖なのかと思ったよ」

「そんなわけないでしょ。私は先生に頼まれたからやっているだけです」

「うーん」


 そこが嘘くさいんだよなぁ。

 白殿の性格的に、先生からの依頼をというのはわかる。けれども、それは依頼の難易度に依るだろう。この依頼は、僕にその気がない以上、達成はほぼ不可能。そのことは、白殿にも既に伝わっているはずである。


 断る理由などいくらでもある。単なる性格だけで、ここまで粘り強くなれるものだろうか。


 何かがあれば別だが。


「金もらってんのか?」

「脳みそ腐ってるんですか?」


 だってさぁ。


 僕が、疑義の視線を向けると、白殿は、少し言い淀んでから告げた。


「お金はもらいませんが、を対価にいただきます」

「あぁ、そうか」


 それで得心がいった。


「結局、下心か」

「えぇ、そうです。いけませんか?」

「いや、むしろ安心した。ここまでムリゲーだとわかって、僕を登校させようとするなんて、本気でやばい奴だなと思ったけれど、自分のためにやっているとわかれば、ちょっとだけ君のことが理解できるよ」

「バカにしてますよね?」


 いや、わりとポジティブな意見なんだけど。


「そうか、そういうことか」


 ここ一週間、白殿の考えがずっと理解できなくて、正直、怖くて仕方がなかったのだけれども、ようやっと片鱗に触れた思いだ。


 今こそ、と僕は決心して言の葉を紡いだ。


「じゃ、おっぱいを揉ませてくれないか?」

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