第6話 諦めのわるいおっぱいだ

 白殿代表の突然の訪問があった日、僕は思いのほかメンタルをやられていたようですぐに寝てしまった。一方で、あのちょうどいい大きさのおっぱいを揉みそびれたことを悔いていたわけだが、挽回の機会はすぐにやってきた。


 翌日、白殿代表が再び訪れたのである。

 

 ホワイ?


 完膚かんぷなきまでに心をへし折ってやったつもりだったのだが、白殿の鋼メンタルには効かなかったのだろうか。


 白殿の顔を再び目にしたときには、ゾッとしたものだけれども、僕は前向きに考えることにした。


 再度、にやってきた。


 今度こそと鼻息を荒く出迎えてやったのだけれども、僕の望みはいっさい成就することなく、またもや口論となり、再び白殿代表は激怒して部屋を出て行った。


 激しくデジャブである。


 いったい何をしにきたのか、と僕は呆れたものだが、その翌日も、そのまた翌日もやってくるのだから驚いた。毎度毎度、口論と激怒を繰り返すのだけれど、めげずにやってくる白殿の粘り強さは、もはや感心に値し、むしろ恐怖であった。


 これ、ループしてね?


 と思えるほど、毎日毎日、発展性のない口論を繰り返した。これだけ繰り返せば、何かしら新しいものが生れそうだが、白殿という女は途轍とてつもない頑固者であり、自分の意見を曲げようとしないし、僕の意見を聞こうとしない。もはや宗教か何かなのかと思えるほどに、学校に通うことを正しいと妄信しており、何とか不登校という僕の悪行をとがめようとしてくる。


 ほっといてほしいなぁ。


 あと、おっぱい揉ませてほしいなぁ。


 僕はそんなことを考えながら、毎度、白殿を撃退していたところ、ついに一週間が経った。


「なぁ、そろそろ諦めないか?」

「言いませんでしたか? 私は諦めたことがないんです」


 白殿代表は、むすっとした顔を見せた。

 

「諦めのわるいおっぱいだ」

「は?」

「いや、何でもない」


 蔑みの視線をこちらに向けてくる白殿であったが、こほん、と咳払いをして姿勢を正した。


「今日こそ、あなたを更生させてみせます」


 目的が漠然としているなぁ。


「なぁ、このやりとりは効率がわるいから、一つ勝負でもしないか?」


 僕は耐えかねて話を切り替えた。


「勝負?」

「あぁ、勝負だ。このままお互い話し合っても平行線、永遠に理解し合うことはない」

「そうでしょうか。私には、あなたを説得する算段がありますけれど?」


 どこから来るんだ、その過信は?


「算段があるかもしれないが、そいつを試すよりも、何かしら勝負をして、きっぱりと白黒つけた方が、お互いに納得できると思うんだ」


 不満そうにしつつも、白殿は顎に手を当てた。


「勝負の方法は?」

「そうだな。フェアなら、何でもいいんだけど、トランプとかどうだ?」

「いえ、トランプはイカサマされる恐れがあります」

「いや、しねぇよ」

「信用できません」


 さいですか。


「じゃ、君が決めなよ」

「そうですね」


 そう呟いて部屋を見まわし、白殿はラックの上から二段目を指さした。


「あれにしましょう」

「将棋?」


 そこにあったのは折りたたみ式の将棋盤。兄から譲り受けたもので、かなり年季が入っているが、駒はちゃんと揃っている。


「君、将棋を指せるのか?」

「えぇ、たしなむ程度ですが」


 嗜む程度の者は、そんなギラギラした目をしない。

 女子にしては珍しいが、白殿は将棋に相当自信があるようだった。この女の場合、過信の可能性も拭えないが、警戒しておくに越したことはない。とはいえ、勝負内容を委ねたのだから、断るのも難しい。


「まぁ、僕はかまわないけれど」

「では、決まりですね」


 僕は、将棋盤を手に取り、それから埃を払う。しばらく使っていなかったことを知り、白殿が、ふん、と小さく笑う。

 

 盤の上に、駒をばらまき、それぞれの陣地に並べる。白殿の手つきは慣れたもので、駒を指先で挟んだ姿は様になっていた。


「私が勝ったら、明日から学校に通うということでよいですか?」

「あぁいいよ。その代わり僕が勝ったら、もう家に来ないでくれよ」

「えぇ、かまいません」


 白殿は、歩駒を掲げて、キメ顔を見せた。


「私が負けることなどありませんので」


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