第3話 こいつ、僕をバカにしにきたのかな?
「そもそも学生は、学校に通うものです」
僕の部屋で、それぞれの主張を提示し合った後、白殿代表は、すぐさま、そもそも論を持ち出した。
「学生が学生たるためには、学校に通い、授業を受け、勉学に励み、友人と親交を深め合うという、いわゆる普通の行いを普通に行う必要があります。放課後の部活動まで含めようとは思いませんが、少なくとも以上のことを行わない者を学生とは言いません」
極論、というか、理想論。この定義だと、学校に通うぼっち、いわゆるプロぼっちさんは学生とはいえないこととなる。まぁ、プロぼっちさんは、学生というより、プロぼっちさんでいい気もするが。そもそもプロぼっちって、何のプロなんだ?
「いいですか。現状、あなたは、誰にでもできる簡単な行為、登校すらできていません。これは、由々しき事態です。すぐさま対処する必要があります」
どうでもいいが、この白殿とかいう女、本当に不登校児と接しているという自覚があるのだろうか。不登校児は、登校を困難に思っているから、不登校なのである。そんな不登校児に対して、登校は誰にでもできる簡単な行為と言い切るなんて、どうかしている。もはや、心を折りに来ているのではないかと疑うレベルである。
まぁ、僕は、登校できないのではなくて、登校しないだけだから、気にならないけれど。
「いえ、できないことを悲しむことはありません。人には能力差があり、普通にできることができない能力の低い人は存在するのです」
こいつ、僕をバカにしにきたのかな?
「ただ、できないことは恥じるべきです。できないということは、つまり、努力が足りないということです。いくら能力が低かろうと、努力をしてできないことなどありません。ゆえに、あなたが登校できないのは、努力が足らないからです。努力不足の自分を恥じてください」
ん?
こいつ、説得しに来たんじゃなくて、説教しに来たのかな?
「しかしながら、努力を始めるのに遅すぎるということはありません。今から始めればいいのです。あなたは登校を困難に思っているかもしれませんが、こんなもの小学生低学年にでもできる簡単極まりない行為です。ここからならば、電車で二駅、乗り継ぎもありません。16歳の健康的な男子であれば、必ずできます」
困難なことに対して簡単なことだと諭せばいい、という安直な考えなのだろうが、心を病んでいる人はマイナス思考なものである。こんな簡単なことで失敗はできない、と余計にプレシャーを感じ、自らを追い込んでしまう。
ここまで、逆効果な説教、もとい説得しかしていなかった白殿であったが、そんな空気は微塵もなく、そのきれいな瞳に力を込めて、自信たっぷりに告げるのだった。
「さぁ、明日から学校に行きましょう」
背筋を伸ばして手を差し伸べる白殿の姿は、それはそれは美しい姿であった。だから、僕は、一つだけ息を吐き、仕切り直してから端的に返答した。
「嫌だ」
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