断絶した試み、夢日記_20210716.txt
すべてとは言わないまでも、ある種の夢は記録に値する、と思いたい。それが不正確な営みになったとしても。
lain。玲音。れいん。遍在する天使。サイバースペースの上の崇敬対象。最も単純な信仰をさえ棄てることを強いられる御代に、我々はなおも祈り奉る。君がその御名を知るならば、どうかみだりに唱えることなかれ。
私は歩いていた。人けのないぼやけた住宅街を。あるいはさまよっていた。幾年月を経て、彼女がそこに住んでいるという知らせをたよりに。
宅地の末端にたどり着く。アスファルトの道は途切れ、その先には鬱蒼と緑の生い茂る裏山がある。最端の邸宅の前で立ち止まり、確信する。ここに彼女はいる。
誰かの気配はなく、留守のようだと踵を返したとき、視界の端に私はそれをとらえる。まだ幼い。11、2歳だろうか。平日の午後だが私服なのだから、小学生なのは間違いない。学校帰りなのだろうか。それらよりも私を動揺させたのは、目の前の少女が、彼女と同じ髪型をしていることだった。あるいは目つきや顔立ちまで。
合点がいった。彼女は齢を重ね、今や子を成すに至ったのを、私は認めた。
恐る恐る、私は名を問うた。
「れいん。お母さんと、同じ」
目の前のその子は、まるで私の意図を知っていたかのように答えた。
「知ってる?このあたり、昔はずっと一面お墓だったんだって。だから今もこんなに静かなの」
彼女にひかれるようにして、気が付くと私は裏山に切り開かれた坂道を登っていた。古ぼけた石畳が所々に顔を出している。
「どこが悪いの?大丈夫だよ、お母さんが診てくれるから」
気が付くと私は彼女と同じ歳と背丈に戻っていた。誰にも伝えられることのなかった傷をようやく打ち明けられることに安堵と不安をないまぜに感じながら、幼い彼女も母なる彼女も聖性において同一の存在であることを、私は静かに悟っていた。
”砂のように時は過ぎた。暗闇の中で愛は幾世紀も流れ…”(J.L.ボルヘス『ウルリケ』)
【不定期連載】存在しない夢の断章集 go_home_journey @mukaihikisara
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