第29話


さて、そこからの神埼先生の持ち直しぶりと言ったらすごかった。何事も無かったかのように先ほどの寸劇の講評を始めた。


「まぁ、こんな感じだ。…最初からこういう台本だったんだぞ?俺は一切悪くないからな??」


言い訳から入る講評もなかなか滑稽である。志帆先生もクスクス笑っている。実はこの二人は本当にそういう仲なのだろうか。


「じゃあ点数から言うとな、俺が75点。志帆先生が95点だ。」


神埼先生の続けた言葉に僕は耳を疑った。

そう、意外にも神埼先生の点数が高い、志帆先生はほぼ完璧に神埼先生を完封したし、この点数には納得であるが。


「意外だろう?だが内わけを聞いてもらえると納得できると思うぞ。俺の配点は演技で50、謝罪で25。"キー"をあらかじめ当てれてたら90台は乗ったな。」


横から、志帆先生が補足するように言った。


「私の5減点は"キー"の開示によるものですね。実際あなたたちの採点はもっと細かく、精査に行います。安心してください。今回の私たちのはあくまで例、全てが大雑把に行われたものだということをお忘れなく。」


志帆先生が5点捨てる代わりに神埼先生は25点を失っている。やはりこれは勝負なのだ。


「じゃあ。やるぞ。もう質問はないか?」


神埼先生は辺りを見渡した。


…あ、そうだ。ライターの意味でも聞いておこうかな。

僕は手を挙げた。


「はい、嫁内。何だ?」


「ライター…。」


そこまで言いかけて、僕はハッと気が付いた。

…これの意味を知らないのは自分だけであり、もしかしたらこの質問はとてつもなくダサいのではないか?


思考を回せ、別の質問を考えろ僕…!


「"キー"はほんとに何でもいいんですよね?」


口から出たのは、防衛側の僕とは毛頭関係無いものだったが、実際かなり気になっていた事だ。聞いておいて損は無いだろう。


「お前がそれを聞くか?」


がははち笑いつつも神埼先生は質問に答えてくれた。


「あぁ。本当に何でもいい。何でも、だ。思考に縛られちゃいかんぞ。」


なるほど、これはかなりのヒントになるかもしれない。


「他に質問はないか?」


今度はこころさんが手を挙げた。かけていた眼鏡が少しずれ落ちる。


「絶対夫婦じゃないとダメですか…?私そういうの詳しくなくて…ライターもよくわからなかったですし…。」


徐にライターの事を口にだしたので内心ヒヤッとしたが、誰も笑うものはいなかった。女の子が純情であることに笑うものはいないのだろう。むしろ微笑ましい。


こころさんの質問に神埼先生はほう、と頷いた。


「それもそうだな。あー、と。もう質問は他にあるか?」


もう質問はあがらなかった。

神埼先生それを一瞥する。


「じゃあ今から攻撃側は"キー"と防衛側との関係性を俺達に教えてくれ。防衛側に関係性は教えてやれよー。」


それからグループごとに会話が始まった。関係性についてである。基本、これを決めるのは攻撃側である。うちのグループも例外ではなかった。


「じゃ、じゃあ恋人同士ということでいいですか…?」


こころさんが恥ずかしげに僕に尋ねる。そう、純情であることに笑うものはいない、むしろ愛らしい。


「わかった、了解。お手柔らかに頼むよ。」


僕がそう言うと、こころさんは嬉しそうに立ち上がり、神埼先生の方へと向かった。


ねぇ。と隣のエミィから声がかかる。


「私たちは夫婦でいいわよね?」


なんの恥じらいもなく、まるでただの確認作業かのようにエミィは言った。

エミィはもちろんライターの意味など当然わかっているだろう。


言うまでもなく強敵となりうる。


「あぁ。それでいいよ。」


エミィが僕の顔を見てふふふと笑う。


「そんな怖い顔しないで?優しくしてあげるわよ。」


エミィは手を挙げて志帆先生を呼び、耳打ちした。

志帆先生が驚いたような顔をして、にこりと笑みを漏らす。


「それのどこが優しいのかしらエミリーさん?」


対峙したエミィも笑いを溢す。


「嫁内君なら、簡単に当ててしまうわ。こんなの。心配要らないですよ佐藤先生。」


僕は志帆先生の名字が佐藤だということをここで思い出した。


「じゃあ、ここが最初に設定が決まったようね。私が見てあげるわ。着いてきて。」


そう言うと志帆先生は神埼先生に声をかけて、こころさんと僕とエミィを引き連れ別室へ向かった。


その道中、エミィが口を開いた。


「こころ、ライターの意味はね。まだ知らなくていいわよ。あなたは今のままが可愛いわ。」


それに対してこころさんは不貞腐れたように返す。


「バカにしないでくださいよう。空さんはわかりましたか?」


急な話題振りに焦りはしたものの、エミィと一緒に居るとき僕は最大限に注意を払っているので自然に返した。


「もちろん。でも、そうだな。まだこころさんは知らない方がいいな。」


ぶふふっと汚い笑いがエミィの方から聞こえたが気のせいだろう。志帆先生かもしれない。それとも僕の気のせい…。


「皆して意地悪するんですか!もう。」


「はいはい、着いたわよ。場所は私たちと同じ所ね。最初はどっちからやるのかしら?」


連れられたのは、また前と同じ、三つの小さい一人用のソファが向かい合わせに置かれた部屋だった。しかし一つだけ前回と異なるところがあった、壁に映されたモニターである。


僕は志帆先生の問いかけに一瞬迷った。


「じゃあこころさんで。」


こころさんが妥当だろう。

まずはこころさんに様子見、練習のような気持ちで相手になってもらおう。はなからエミィは到底無理そうである。


「はい!じゃあよろしくお願いします!」


こころさんが気合いの入った声で言った。


「私とエミリーさんはここのモニターから見てますからね。準備が出来たら、再度CiIに触れてくださいね。」


志帆先生の言葉に、こころさんと僕は目を見合せた。そしてこくりと頷き、こころさんは自分の眼鏡を、僕は腕時計に触れた。


飛んできた世界で、また更に飛ぶのも不思議な話である。




僕が目が覚めた世界は、



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空気の読めない僕は、すべてのフラグを折ることにしました。 さんずいあき @sanzuiaki

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