第27話 いざ、合コンへ

 合コン当日となった。

 薄暗くなった道を走り、待ち合わせ場所の居酒屋へと急ぐ。


「麻衣ちゃん」


 居酒屋なんてあんまり行かないし、ちゃんと場所が分かるかなと思っていたんだけど、オレンジ色の看板の下、見慣れた友人の姿をすぐに見つけたのでほっと胸を撫で下ろした。


「果歩、こっちこっち」


 麻衣ちゃんの横には着飾った女の人が三人いた。どうやらこの人たちが今日の合コンのメンバーらしい。


「こちら、うちの会社の同僚の佐藤さんと奥村さん、それに今野さん。こっちが果歩。大学時代の友達」


「よ、よろしくお願いします」


「よろしくー」


 麻衣ちゃんの同僚の子たちは、みんな綺麗でキラキラしてて、私はなんだか酷く場違いな気がしてうつむいた。


「果歩、今日はお洒落してるのね。髪も巻いた?」


 麻衣ちゃんが私の髪の毛先を撫でる。


「うん。伸びてきたから、ちょっといじろうかと」


 本当は秋葉くんや大吉さんに言われたから仕方なくやったんだけど。

 苦笑いをすると、麻衣ちゃんは大袈裟に私を褒めた。


「うん、可愛いよ、似合ってる。果歩、もっと髪、伸ばした方がいいよ」


「ありがと。でも短いほうが楽だから……あ、そうだ」


 私は忘れないうちにと麻衣ちゃんにお土産を渡した。


「麻衣ちゃん、これうちのお店のお菓子。お土産に持ってきたの」


「わぁ、ありがとう」


 私は麻衣ちゃんの持っている小さなバッグを見た。しまった。かえって荷物を増やしてしまったかもしれない。


 というか、みんな鞄小さくない? 


 私はみんなのカバンをチラリと見た。

 大きいバッグを持ってるのは私だけで、みんな携帯と財布しか入らないような可愛い小ぶりのバッグをちょこんと手に持ってる。


 しまった。服装のことは考えてたけど、鞄まで手が回ってなかった!

 合コンに不釣り合いな大きな鞄を抱え、私はぎゅっと縮こまった。


「それじゃあ、そろそろ行こっか」


 私たちは挨拶を済ませると早速、居酒屋の中に入った。

 ザワザワと騒がしい店内。立ち込めるアルコールと煙草の臭いに頭がくらくらする。


「男性陣はもう着いてるって連絡来てるけど――」


 麻衣ちゃんが辺りを見回す。


「あ、いた、あそこだ」


 薄暗い居酒屋の中、男の人たちは席に着いてこちらに手を振っている。私は緊張しながらみんなと一緒に空いている席に座った。


「ここ、甘い酎ハイとかカクテルが多いから女の子でも安心だよ。デザートも沢山あるし」


「さっすが、気が利きますね~!」


「ここ初めてだけど、雰囲気良い!」


 メニューひとつで盛り上がるメンバーたち。どうして初対面なのにそんなにスラスラ会話できるのだろうか。


 とりあえず甘い酎ハイを頼み、みんなで乾杯をする。そこから流れるように自己紹介タイムが始まった。


「果歩ちゃんもみんなと同じ会社なの?」


「いえ、私は……」


「果歩は、私の大学の時の友達で、今は和菓子屋さんで働いてるんだよねっ!」


「あっ……うん、はい」


「和菓子屋さん!」


 あはは、となぜか笑いが起きる。


「ぴったりだね」

「うんうん、和菓子売ってそう」

「クリームじゃなくてあんこ顔だよね」


 なぜか上手いこと言ったみたいな空気になり笑い続ける男性陣。

 私は何が面白いのか分からなかったけど、とりあえず苦笑いをしておいた。


 しばらくして頼んでいたサラダがやってくる。私がぼんやりとしていると、女の子の内の一人がテキパキとサラダを取り分けだした。


「私、取り分けますね」


「奈緒美ちゃん、女子力高い」

「さすが、デキる女って感じ」


 

 男性陣はサラダを取り分ける女の子を誉めだした。

 そういえば、合コンではサラダを取り分けたりする気の利いた女の子がモテるって聞いたことがあるような。あれって本当のことだったんだ。

 私があっけに取られていると、向かいに座っていた男の人か私に話しかけてきた。


「果歩ちゃんは趣味とかあるの? 休みの日は何してる?」


「あの、えっと、読書とか」


「読書! 出た、読書!」


 何が「出た」なのだろう。よく分からない。


「読書好きそうな顔してるもん」


「確かにー」


 隣の男性も同意する。私はまたしても苦笑いするしか無かった。


「えっえっ、ちなみに好きな作家とかいるの?」


「あっ、はい。小野きよ子先生っていって、ミステリーの……」


「やっべ、全然知らねー!」


「俺なんて本読むと三秒で眠くなるから」


「あはは……し、知りませんよね……」


 私は目の前のサラダを見つめた。

 いつの間にかお刺身や揚げ物など他の料理も来ていたが、なぜだか全く喉を通らなかった。


「ちょっと私、お手洗い行くね」


 麻衣ちゃんが立ち上がる。


「あっ、私も」


 いたたまれなくなった私は、麻衣ちゃんと一緒にトイレへと向かった。


「どう、好みの男いた?」


 化粧を直しながら麻衣ちゃんが聞いてくる。


「ううん」


「だよねー。私のイケメンセンサーも全然反応しないわ! イケメン揃いだって言ってたのにさー。本当、男の言うイケメンって当てになんない」


「ははは……」


 イケメンセンサーって何?


「はー、私はやっぱり大吉さんだわ。カッコイイし、優しいし」


 うっとりとしながら宙を見つめる麻衣ちゃんに、少しぎょっとしてしまう。


「えっ、麻衣ちゃん……大吉さんが好きなの?」


「んー好きというか、まぁ、タイプよね。ねぇ果歩、大吉さんって、彼女いるのかしら」


「多分いないんじゃないかな」


 特定の彼女はいなくても、キープしてる女友達は沢山いそうだけど。そう言いかけて口をつぐむ。

 麻衣ちゃんはコンパクトをパチンと閉じた。


「まぁ、詳しい話はまた後で。とりあえず戻ろ」


 背中を叩かれ合コンに戻る。


 ――が。


 席に戻るなり、私は目をパチクリさせた。

 私と麻衣ちゃんが居ない間にいつの間にか席替えが行われていたのだ。


「えっと、私の席は」


 私がまごまごしていると、女の子の内の一人が空いてる席を指さした。


「果歩ちゃんの席はあそこ」


 見ると、眼鏡をかけてひょろりと痩せた男の人の横が空いている。

 男の人は、私の顔を見るなり眉をひそめ、露骨に渋い顔をした。隣に美人が来なくてがっかりしたのかもしれない。

 だけれどそこした席がないので、そこに座る他ない。


「失礼します……」


 私はおずおずと眼鏡の人の隣に腰かけた。

 眼鏡の男の人はギロリと目玉を動かし、私を見た。


 ……大丈夫かな?


 

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