第26話 おひろめ
買い物を終え、ヘトヘトになりながら家に戻る。
「大吉さん、せっかくだから上がっていってお茶でもどうですか?」
「うん、そうするよ。ありがとう」
大吉さんと二人で部屋に戻る。
「ただいまー」
「おっす、おかえり」
勢いよくドアを開けると、なぜかひょっこりと顔を出したのは秋葉くんだった。
「秋葉くん、どうしたの?」
「どうしたもこうしたも、果歩が合コンに行くためにお洒落するって言うから、どんな風になるのか見に来たんだよ」
意地悪そうに目を細めて笑う秋葉くん。
よ、余計なお世話!
「おかえり、果歩さん。大吉兄さんに変なことされなかった? 変なことされたら警察に行っても良いんだよ」
奥から悠一さんも出てくる。
「お前なー、実の兄だぞ!」
「冗談だよ」
じゃれつく上二人の横をすりぬけ、秋葉くんが私の荷物をのぞき込む。
「なぁ、服買ったんだろ? 着てみろよ」
「えぇっ」
「そうだね、秋葉と悠一にも見せてあげなよ」
大吉さんに言われ、仕方なく買ったばかりのワンピースに袖を通す。うう、何だか緊張するなぁ。
「着ましたけど」
渋々自分の部屋で着替え、三人の前で一回転してみせる。
どうせ
「おお、割といいじゃん。馬子にも衣装っつーか。なぁ、悠兄」
急に話を振られた悠一さんは、戸惑った様子ながらもコクリとうなずいた。
「うん、そうだね。似合ってるよ」
「本当ですか?」
たとえお世辞でも、悠一さんにそう言ってもらえるなんて何だか嬉しい。
「悠一ったら、果歩さんが急に綺麗になって照れてるのかな?」
大吉さんがニヤニヤする。
「違うって。ワンピース姿なんて見たことなかったし、いつもとちょっと雰囲気が違うから……」
「またまたぁ」
だけど秋葉くんは、私の姿をじーっと見つめ、険しい顔をした。
「でもなーんかまだ地味だな。すっぴんだからか? いい年なんだから化粧くらいしろよ」
私は思わず目をパチクリさせた。
「えっ、一応、化粧してるんですけど……」
「ええっ、嘘だぁ」
大袈裟に驚く秋葉くんに、私は必死で説明をした。
「本当ですよ。ファンデーションも塗ってるし、眉毛も描いてるし」
「そう言われてみれば、お風呂上がりの果歩さんって眉毛無い気がする」
顎に手を当て、ボソリと呟く悠一さん。
うう、見られてたのね。
秋葉くんはこぼれ落ちそうなほど目を見開いた。
「ええっ、てことは本当に化粧してそれなのかよ。じゃあスッピンはどんだけ地味なんだ?」
ひ、酷い。そりゃ私は、秋葉くんみたいに睫毛のびっしり生えたパッチリお目目じゃないし、鼻も高くないし、薔薇色の唇でも陶器のような白い肌でもないけどさ!
「いや、眉毛が多少無いくらいでスッピンもそんなに変わらないよ」
悠一さんが答える。
「まぁそんな感じはするけどさ。もっと化粧しろよ。動画サイトとか参考にしてさ」
「べ、勉強します」
すると今度は大吉さんが私の顔をじっと見つめた。
こ、今度は一体何?
「そうだね。なんか全体的に色味が足りないから、アイシャドウとかチープとかリップとかもっと塗ればいいんじゃないかな。あとはアイライン」
「は、はぁ。アイラインは引いてます、一応」
「じゃあもっと太く引いて、あとはマスカラかな」
「が、頑張ります」
大吉さん、どうしてそんなに化粧に詳しいの。
「それからその色気の無い髪型。もっと髪を伸ばすとかパーマをかけるとかした方がいいぜ。高校生じゃねーんだから」
秋葉くんのダメ出しに、大吉さんも同意する。
「そうだね。毛先とか、コテで巻いてみたらどうかな」
「な、なるほど」
大吉さんと秋葉くんから色々とアドバイスを貰いメモをしていると、秋葉くんがジロリと悠一さんを睨んだ。
「つーか悠兄、どうしたんだよさっきから渋い顔して」
「別に、渋い顔なんてしてないよ」
「もしかして、果歩ちゃんが合コンに行くのが嫌とか?」
苦笑する大吉さん。
「別にそんな事ないけど」
悠一さんは私の顔をチラリと見た。
「果歩さん、知らない男の人には絶対一人でついて行っちゃ駄目だよ」
「は、はぁ」
私が首を傾げていると、秋葉くんがあきれ声を出した。
「あのなぁ、果歩は幼稚園児じゃないんだぞ?」
「そ、それは知ってるけど……でも、もしいいと思う人がいたら、まずは僕たち三人に相談してね。三人で審査して、この人なら大丈夫ってなったら安心して果歩さんを任せるから」
真剣な表情で私のことを見る悠一さん。どうやら本気で心配しているらしい。
「えっ、僕も審査に参加するの?」
「へぇ、面白そうじゃん。言っとくけど俺は、自分よりいい男じゃないと審査で落とすから」
「……まぁ、面白そうではあるね」
なぜか秋葉くんと大吉さんまでやる気になってるし!
っていうか、秋葉くんよりイケメンじゃないといけないってハードル高くない?
「わ、分かりました。でも私なんてただの数合わせだし……」
「いや、どんな男がいるか分からないからね。嫌だと思ったらすぐに帰ってきてね」
真剣な表情の悠一さん。
「わ、分かりました……」
「過保護だなぁ、悠一は」
「本当だぜ」
大吉さんと秋葉くんが呆れ顔をする中、悠一さんは熱弁をふるう。
「とにかく……僕は果歩さんが嫌な目に合ったり泣いたりするのが一番嫌なんだ。果歩さんはうちの大事な従業員だし、家族みたいなものだから」
「はい」
私は小さく頷いた。そして頭の中で、確かに悠一さんは少し過保護かもしれないと思った。
でも、私のことを本当の家族みたいに思ってくれているなんて思いもしなかったから、そこはちょっぴり嬉しいかも。
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