第3章 6-6 アークタの覚悟

 桜葉は三度振りかぶって刀を振り、剣道の切り替えしの要領でさらに三度、刀を振った。そのうち初太刀と二回目がはずれ、大きく踏みこんだ三回目も皮一枚でかわされる。


 「…………!!」


 あとちょっと。あとちょっとのはずなのに、最後がきめられない。しかもなんだ、ダメージが八割を超えているはずなのに、どうしてこいつは動きが鈍らない!?


 思わず上空のゲージを確認する。自分はまだ半分も残っている。ヴェルラは八割半ほども減っていた。あと一発当てれば勝てる!


 その瞬間、ジャッ、と刀に鎖が巻き付けられ、

 「あっ……」


 と、思ったときにはギャウッとひっぱられて刀が手からぶっ飛んで行った。

 「しま……!!」


 なんという失態!! 焦りでゲージに気を取られ、鎖鎌相手に一番やってはいけないことを!


 「!!」


 ヴェルラが悪魔みたいな笑みをたたえ、桜葉へ襲いかかる。サッと一応それらしく半身に構えたが、桜葉、徒手空拳はド素人以下だ。


 力任せにヴェルラが束ねた鎖を叩きつける。桜庭が右腕でそれを防いだときには、ヴェルラが膝を折って回転しながら身を沈め、桜葉の片足を鎌でひっかけてひっくり返した。桜葉が豪快に後頭部から地面に落ちる。ダメージは一割半ほどだ。


 本当の武術ならこれから心臓を突くなり喉を掻き切るなりして終了だが、ハイセナキスは違う。ヴェルラは迷わずに横たわる桜葉の脾腹の急所を爪先で三度蹴り、細かなダメージを蓄積させる。一割前後のダメージでも三連続ではクリティカルに匹敵する。たちまち桜庭のゲージが八割以上も減った。


 そして怒濤の攻め! 最後に心臓めがけて鎌が突きたてられた。これがクリティカルだと一撃で大逆転ゲームオーバーだ。


 ヴォガア! 大爆発がし、桜葉が絶望に顔を歪めた。

 「…………!!」


 が、様子が変だ。会場の反応も悲鳴からどよめき、ざわつきへと変わって行く。桜葉の……イェフカのゲージが減らない。爆煙が流れる。誰か、桜葉の上へ覆いかぶさっている。桜葉は人の乗る重みを感じ、驚いて目を開けた。


 アークタだ!


 アークタが飛びこんで桜庭を庇ったのである。アークタはゲージは残りヒトケタほどだったので、当然これで負けとなった。これは、ルール違反ではない。だが負けた選手がハイセナキスへ関わるのは、戦闘妨害という反則だ。


 アークタが「分かってんだろ」という顔でニヤッと笑った。

 「こなくそ!!」


 桜葉、渾身の力でアークタを押し退けると同時にヴェルラへ向けて叩きつけた。これはギリギリ不可抗力だ。ヴェルラがアークタを膝蹴りにして払いのけ、桜葉は這うようにその場から移動し、走って間合いをとる。そのまま刀の位置を確かめ、一直線に駆け寄る。


 すぐさまヴェルラの分銅が飛ぶ! チラリと横目に距離を確認する。残念ながら刀は鎖の間合いに入っている! ドッ! 桜葉が手を伸ばして刀をつかむ直前、胴体に分銅が突き刺さるタイミングだった。桜葉が直角ジャンプでその場を離れると、地面を分銅が抉った。


 ジャッ! と鎖が引き戻され、分銅がヴェルラの元へ帰る。それを待っていた。桜葉が再び刀へ手を伸ばす。が、鎖が戻る途中で踊り、威力は低いがもう一度桜葉へ向かった。


 「……クッソ!」


 桜葉がまた避ける。もうヴェルラが向かって走ってきている。連続して分銅が桜葉を襲った。ゲージがまだ残っているのなら多少のダメージ覚悟で刀をとるのだが、いまは互いに一撃くらえばもう負けだ。

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