第3章 6-7 二人同時に

 分銅を避け続け、どんどん間合いが開いた。このままではヴェルラに刀をとられる。

 そこで、桜葉はヴェルラと自分の刀へ背を向け、反対方向へ逃げた。

 「なにやってる!?」


 鎖が届かない距離だ。ヴェルラは一瞬、迷ったが、桜葉を追った。その時には、桜葉は最初にガズ子から放り投げた自分の槍を拾っていた!


 「……しまった……!」


 桜葉、槍を構えると一直線にヴェルラへ向かった。ヴェルラはここでも迷ったが、桜葉めがけて一直線に分銅を飛ばした。


 桜葉はそれを待っていた。ドラムの眼と反射速度で見切り、長槍で分銅を防ぐと同時に鎖を絡めた。ジャッ、ジャッと槍を回して鎖を巻き取り、逆に封じて行く。ヴェルラが鎖を張って対抗する。桜葉は両腕を縮めて脇を締め、槍を構えて踏ん張った。


 「……ぐうううう……ッ!!」

 「ぬうううう……!」


 力の限り互いにひっぱる。こうなればもう、ドラムの力だ。スヴャトヴィト式とロパルツン式の力比べだった。


 ヴェルラの表情が驚きと真剣の混じったものとなる。桜葉に……イェフカに力負けしそうになる。このロパルツン式三型乙とパワー勝負できる機体があるとは……そんな表情だ。


 いっぽう桜葉、そんなこと知ったことではない。踵を踏ん張りつつ全身で高々と掲げ持つ槍を支えた。次第に槍がしなる。桜葉としては鎖が切れるのを期待していたが、その前に槍が折れそうだ。


 (白樫みてえなこの硬い木を折るんかよ!!)

 もしかして、この鎖はただの鉄鎖ではなく鋼か!?


 一か八か!! おそらくこのままではヴェルラも同じようにした可能性があったので、桜葉、先に仕掛けた。


 瞬時に前へダッシュした! 当然ヴェルラはガクッ、と後ろへバランスを崩す。そのふっとんだヴェルラめがけて槍を投げつけた。


 そこはさすがに、ヴェルラはバランスを崩しながらも耐え、鎖を引っ張って槍の軌道を変えてしまう。急いで絡まっている鎖を解き、どうせ刀のところへ向かった桜葉めがけて分銅を飛ばす。


 だが遅かった! 桜葉は作戦成功、刀を拾い、一発で納刀してそのまま虎走りの体制で螺旋に回りこみヴェルラの間合いに入る!


 「こぉのおお!!」


 ヴェルラが大回しに鎖を桜葉の足元めがけて投げつけた。足を止めようという作戦だ。桜葉がひょいとそれを跳んで避けた瞬間、鎖を操って分銅が跳ね、空中の桜葉をとらえる技だ。


 が、桜葉め! 先ほど投げつけた槍を進行方向の地面へとらえるや、一足で近よった瞬間それを蹴り上げて鎖へ当てたではないか!!


 カラッ、ガシャア! 鎖が槍へ絡まり、ヴェルラがたまらず槍ごと引き戻す。

 一直線に走りこみ、たちまち桜葉が間合いに入った!


 横一文字か縦の抜き打ちか、それとも斜に打ってくるか!? 瞬時の判断は賭けだった。居合の技の仕組みを知ってる者は、右手ではなく左手の角度で刀の攻撃角度を観るが、ヴェルラはそこまでではない。しかもドラムの攻撃はまさに神速だ。


 (立った高さで水平斬り!)


 ヴェルラはそう判断し、攻撃を避けつつ先ほどのように桜葉の足を攻撃しようと回転しながら膝を折って身を沈めた。だが……。


 ヴェルラと桜葉の眼が合う。なんと桜葉も瞬時に膝を折ってしゃがむ姿勢となり、ヴェルラの足を狙ったのだ。従って、二人同時にしゃがんだ格好となった。

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