第3章 5-2 第6試合 イェフカ対ユズミ
「あ……そっ……そ、そおーーーーーーなんです!! つっ、つ、つつつ、ついついつい、田舎の不躾な習慣をクロタルさんにおし、おし、つ……」
桜葉が黙る。クロタルが自分から桜葉へディープキスをしてきたのだ。
「ただ口をつけるだけなんて不思議な儀礼ですが、これでイェフカが落ち着くのであれば、いつでも遠慮なくどうぞ。フフフ」
桜葉は耳まで顔を真っ赤にし(実際はなっていないが)、今すぐクロタルへプロポーズする勢いだった。しかしそれを喉の奥へ呑みこんで、顔を両手でバシバシと叩いた。
「よおし! やります! やってやりますとも! 見ててください、クロタルさん!」
「はい。頑張ってください」
(チクショウ、クッソ、チクショウ、クッソ! クッソクッソクッソ! ドチクショウが!! なんでおれはドラムなんだ! なんでドラムは女形なんだ! なんでなんでなんで……!!)
桜葉は瓶からカップで汲んで水をがぶ飲みした。そして、忽然と閃いた。
(まて……よ……クロタルを零零四型にして……二人で住めばいいじゃんか!! ドラム同士なら変じゃねえだろう! 歳もとらないだろうし、いつまでもハイセナキス選手としてイチャイチャしながら暮らせる……だと……!?)
俄然、やる気が噴火した。妄想力大爆発。魔力炉が口から出てきそうだった。
「クロタルさん! あたし、優勝して見せます! 全国大会でも、大暴れしますよ!!」
「はい」
桜葉はいますぐ競技場へ出ようとしたが、
「まだ時間ではありませんよ!」
そう云われ、武者震いしながらそわそわしだした。魔力炉ギュンギュンである。脳天から蒸気が噴出る機能があったら、音を立てて噴気していただろう。
「その様子では、少し補給しておいたほうが良いですね。軽く、食事を!」
桜葉の分はまだ調理中で、いまはちょうどアークタとランツーマが食事中だったが、余りや作り置きを持ってきてもらう。桜葉はけっきょく、普段の半分以上も食べ尽くした。
「イェフカ、時間ですよ!」
云われてもまだ食べたりなかったが、時間とあらば仕方も無い。幸い、魔力炉は食べたものを瞬時に消化する(と、云ってよいのかどうかわからなかったが)ので、腹が膨れるという感覚はない。ただ、エネルギーに満ち溢れている。
「じゃ……行ってきます!」
「いってらっしゃい」
クロタルがまた桜葉へ自ら口づけしてきた。桜葉め、年甲斐も無く有頂天で踊りだしそうだったが、それを全て闘志に変える。
晒しをきつく巻き締め、通路を進み、刀を差した。槍を受け取り、興奮するガズ子へ発破をかける。
「よし……やるぞ! あの作戦だ!」
グフゥン! ガズ子が胴を震わせた。
競技場へ出る。予選最終戦! この試合に勝ったほうが二勝一敗同士、アークタと決勝戦となる!
見ると、ユズミも気合が入っているのが分かった。変わらず両手持ち用の長い柄のあるバスタードソードを帯び、長弓をもって堂々とした騎士然だが、生身だったら興奮で顔が上気しているだろう。大きく豊かな胸が波打ち、呼吸が上がっている。
桜葉は大歓声の中、ガズ子を歩ませた。ユズミは飛び立つ地点で止まった。
桜葉はさらに進む。ユズミは位置取りのため、既に視線を上へやっていた。
桜葉が止まらない! 間合いを盗み続け……ついに早足から走り出した。客が気づいてざわめいたところで試合開始のファンファーレ! ゲージが出現し、ユズミが飛び立とうとドラゴンの姿勢をグッと低くしたところに、ガズ子が突進で突っこんだ!
なんと、地上ランスチャージ!
「!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます