第3章 5-1 つい、本音
(投剣!!)
逆カウンターか! 桜葉が度肝を抜かれる。あんなもの、よほど訓練を積まないと当たるどころかまっすぐに飛んですらゆかぬ!
「……!!」
硬直するランツーマの顔面へ剣が突き刺さるようにヒットするのと、対空弾がはじけ、アークタが衝撃で倒れ伏すのと同時! すわ引き分けか!? と思われたが、勝利のファンファーレはアークタに吹き鳴らされた!!
全員が注目したその上空のゲージでは、ほんのわずか、数値で云えば5以下の残りヒト桁で、アークタの勝利だ!
ぐわっ……! 歓声と怒号で、競技場が揺れた。桜葉とクロタルが、大きく息をついてどっと椅子の背へもたれかかった。
5
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
控え室へ戻った桜葉、頭をかきむしったまま壊れた人形みたいにガクガクと震えながら声を出し続けた。じっさい、壊れてしまいそうだった。きっとドラムから魂が幽体離脱して口から出ている。午後からのユズミ戦へ向けて、緊張のあまり精神崩壊だ。
控え室でクロタルがおろおろしつつも決然と、
「しっかりしてください! イェフカ! 大丈夫です! あなたの実力であれば、訓練期間の不足など問題ではありません!」
そういう問題じゃない、そういう問題じゃないんだよおおお!!
桜葉は声に出して叫びそうになるのを懸命にこらえ、両手をじたばたと上下する。
「実力なんか最初から無い! おれは本来ここにいるべき人間じゃない! こんな緊張に耐えられるほどメンタル強くない! おれは、好きでここにいるんじゃない!!」
クロタルの眼が見開かれる。
「あ……」
懸命にこらえていたはずが、声に出てた。
桜葉が云い訳をする前に、クロタルがそっと桜葉を抱きしめた。
「……わかっています。アナタが本来ここにいるべきでないのも、ハイセナキス選手として心構えがなっていないのも。当然です。本当は、私がイェフカに選ばれなくてはいけないのに、私にはその力が無かった……アナタが好きでここに来たのではないことは、私が一番分かっていますよ。本当にごめんなさい」
「ち……」
違うんだ、クロタルは悪くない。おれがぼーっと運転してたから……。
そんなことを思ったが、云えるはずも無く桜葉はブルブルと震えだした。クロタルが抱きしめる力を強くする。クロタルの、甘いような独特の体臭が鼻をくすぐった。
「…………!」
桜葉はもう辛抱溜まらず、身を少し放すや自分を見つめるクロタルへ豪快にキスをした。クロタルがビクゥ、と身を震わせたが、かわまずそのまま舌を入れた。腰と尻へ手を回し、ギュッと抱きしめ、まさぐった。やわらかい、久々の感触だった。
ややしばらくそうして、クロタルの唇と舌を存分に貪った桜葉はゆっくりとクロタルから離れた。口と口の間に唾液の糸が引いた。
「ご……ごめんなさい……」
目線を外して斜め下を見る。何を云われようが、叩かれようが殴られようが蹴られようが通報されようが仕方ない。セクハラだ。いや、性犯罪だ。御用だ。新聞沙汰だ。実名報道だ。社会的制裁だ。実刑だ。ク ビ だ。人生は終わる。
そう思ったが、クロタルはきょとんとして、
「い……今のは、コロージェン地方の儀礼風習か何かですか?」
「え?」
「落ち着いたようですね、イェフカ」
クロタルがにこりと笑った。
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