第3章 3-1 第3試合 イェフカ対ランツーマ

 (せっかくの光剣なんだから、あんな本物の剣みたいに振らないで、それこそジェ……の騎士みたいにだな)


 口でブォン、ブォンと云いながら映画のシーンを無意識で再現する。

 「いやいやいやいやいや」


 そんなことを考えている場合じゃねえ! 初手のあの遠隔攻撃を、ドラゴンランスでどう戦うかだ。


 「チクショウ! クッソ!! アークタとランツーマ戦を、もっとよく観とくんだった!!」

 ベッドの上でジタバタしたところで、無慈悲に時が過ぎるだけであった。


 (だめだ。ちょっと落ち着こう。思考を落ち着かせるんだ)

 そう思い、大きく息をついていったん全てを忘れる。しばし瞑想するつもりで。

 気づいたら、朝だった。



 控え室で、本当は食欲など無いのだが朝食を貪り食う。桜葉は自棄になっていた。なんかもう、考えるのがばかばかしくなった。だめなら来年だ。一勝したから、最低限の義理やメンツは保てただろう。勝手にそう思った。


 (クロタルにゃ悪いけども)


 よく考えたら、ここのところかわいい感じで忘れていたが、最初の頃のあの態度を思い出すとムカムカする。クロタルのために無理する必要も無い。


 「すばらしい、昨夜はよく休んだようですね。さすがです」

 「う……ん。まあ、はい」

 いつものメイド服にも似た黒いワンピースと白シャツで、クロタルは控え室へ現れた。


 「魔力炉に余裕がありますよ」

 「そうですか」


 けっきょく行き当たりばったりだ。いつもそうだ。おれの四十年、人生行き当たりばったり。


 「アハハハハ!」


 いきなりイェフカが笑いだしたので、クロタルがさらに驚きと感心の表情をうかべる。桜葉は自嘲の笑いだったが、余裕ととらえられたのだろう。


 「ですが、慢心はいけません」

 「はい、慢心ダメ、絶対」


 時間が来て、桜葉は先日とは逆の通路を通り、刀と槍を受け取ると竜場へ出て、ガズ子へ乗った。


 「昨日よりは落ち着いてるなあ」

 我ながらそう思った。これなら、行けるかも。


 槍と刀をとり、ガス子へ乗って……先日はアークタが出てきたところから出る。そして、昨日自分が出たところから現れたランツーマと対峙する。アークタと違い、いつもランツーマは無表情だ。虚無的なところがある。


 (そういや、三人の過去って、アークタがどこだかのスラム出だということ以外、何にも知らねえな)


 ふと、そんなことを考えてしまう。そんな余裕はないはずなのに。


 けたたましくファンファーレが鳴って、桜葉がびくりと身を震わせる。しまった。一瞬、気が緩んだ。あわててガズ子を飛ばしたが、既にランツーマが上を取っている!


 (マズイ!)


 思ったそばから雨あられと「マジックミサイル」が降ってくる。ガズ子を捻り、急転して高度を下げた。地面すれすれを蛇行して避け、観客席もギリギリで急上昇した。バッサバッサと翼をはためかせ、ガズ子が大きく上昇するが、そこでも蛇行飛行を忘れない。そんな桜葉へ、ランツーマの跳弾攻撃! 避けたと思った光線が客席を護る魔法に跳ね返って、カーブを描いて桜葉を的確に襲う!


 ガブァア! 衝撃が轟きエフェクトが光る。二割ほどもダメージを食らった。小クリティカルほどか。


 「こりゃ、たまんねえな!」


 桜葉もる者。なんといっても。観客席を護る透明の魔法防壁を利用し、ガズ子をその壁めがけて着地体制にする。ユズミの矢も跳ね返していたのを見て、物理的にも防壁効果があると思っていた。それを利用する!

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