第2章 5-5 襲撃

 さらに桜葉は衝撃を受け、めまいにより今度こそ腰が抜けて座りこんだ。部屋の壁には木刀が何本もかけてあり、床の間には「天照大御神」と書かれた掛け軸が半分腐ってかかっている。


 なんということか……ここは、武道場だ。まちがいなく。完全に武道場だった。しかも、江戸時代とか、明治時代とかの。山奥で人知れず伝承されてきた秘術の道場だ。名も知らぬかたな鍛冶かじが、それをひっそりと伝承している。


 「剣豪小説かよ!!」

 思い切り床板を殴って、穴が開いた。

 ゆっくりと、穴から拳を出す。土めいて朽ちた木材が手へこびりついていた。


 「ハハ……ハハハハ……」

 桜葉は生身だったら泣いていた。号泣していた。


 「やっぱりおれ、病院で寝てるんだ……全身チューブだらけで意識が戻んないで……ずっと悪い夢を見てるんだ……」


 乾いた笑いと共に、頭が真っ白となった。

 その時。


 ふいに、不思議な感覚に襲われた。突如として今の衝撃と混乱を洗い流すかのような冷静が襲ってきた。胸の奥が……魔力炉が急に回りだすのが分かった。ああ、これが機能停止の前兆か……とも思ったが、すぐにそれは違うと分かった。探知系の魔力が放出され、レーダーのように周囲の様子が分かる。


 すなわち、敵だった。


 何者かが天井から飛び下りて桜葉を襲うのと、桜葉が転がってそれを避け、道場を横切って反対の壁まで一気に逃げるや立ち上がって壁の木刀をとるのがほぼ同時。


 見るともう、同じような姿をした女性が片手剣を振り上げて襲ってくる。魔力回路が回り、攻撃・防御用の魔力が発動する。木刀は真剣並の攻撃力を有し、ドラムの身体が魔力防壁を張った。


 「うぅおあああ!!」


 女は、右手を大きく振りかぶって一撃で桜葉の脳天を狙ってくる。桜葉は咄嗟に下段からその剣を持った右手首めがけて逆袈裟に切り上げた。


 バッゴァーン!! 爆発にも近いハイセナキスによる魔力の炸裂した衝撃が走り、桜葉は朽ちた壁をぶち破って背中から外へふっとばされた。


 つまり、相手もドラムである!


 桜葉があわててたいを立て直し、無意識で納刀と同じ要領で左腰に木刀を構える。すかさず女が剣をもって桜葉の空けた穴より飛び出てきた。


 が、る者。桜葉の見たこともない構えを確認し、間合いの外で止まる。

 「……テツルギンも、を見つけてたとはねえ」

 言葉が分かる。帝国共通語というやつか。と、すると……?


 じっくりと観察する間はない。一瞬で判断する。顔だちがテツルギン人と少し異なり、もっと眼鼻が高く欧米人っぽいが、肌が褐色だ。インド人に近いか。髪は銀髪に近い灰色だった。


 七選帝侯国以外のドラムが他国の山間さんかんの、こんな仙人のいおりめいた廃屋を訪れていた?


 「しかもあんた、噂の新型かい? 帝都を追われた狂人の……」


 もう、桜葉が動いている。ス、スッ、スウッーーーと、居合いあいひざで距離を詰める。序破急の動きだ。見知らぬ者には動きがつかめぬ。


 「……ッ!?」


 気がつけば間合いに桜葉が入っており、すさまじい眼光と裂帛の気合、同時に氷のように冷たい殺気と共に腰に構えた木刀が横真一文字に謎のドラムの顔面を狙っていた。謎のドラムは褐色肌の顔が驚愕で引きつって、腰砕けに後ろへ下がったがそれが功を奏し桜葉の居合の一刀を真下に下がって避ける格好となった。


 尻もちをつきかけた姿勢のまま、褐色肌のドラムが桜葉の足を狙って剣を振り下ろす。が、それより早く桜葉の前蹴りがドラムの顔面を襲っていた。


 バガアッ! 衝撃音がし、褐色のドラムはふっとばされて再び道場へ転がっていった。

 そこで、目をむいて桜葉の息が戻る。

 「ハアーッ、ハアーッ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る