第2章 5-6 お目覚プレイ
初めての実戦だった。魔力炉がひっくり返りそうだった。
すぐさま敵ドラムが飛び出てくる。あわててサッと右
桜葉は、すさまじい表情で自分をにらみつける相手に、ビビりだした。
と、その褐色肌ドラムをとらえていた視界が急激に狭まってきた。さらに、魔力炉の回転が遠心力を失った独楽めいて一気に止まりだす。
(ヤ、ヤバ……!)
ぐぅん……全身の力が抜ける。魔力の供給がたちまち絶たれてゆく。
敵のドラムがニヤッと笑った。
「おやおや、機能停止かい。それじゃあ、有り難く新型ドュラーンムだけ頂いて帰ろうか」
機能停止の副作用なのか、何なのか。どういうわけか、目の前に稲妻のようなプラズマのようなうねる閃光が落ちてきて、桜葉は完全に意識を失った。
気がつくと、誰かが寝ている自分の上半身を支えて、顔の前に誰かの顔があるのが分かった。次に口中に液体があるのを自覚する。牛のコンソメスープに似た、滋養あふれる味がした。桜葉は大きく飲みこんだ。
「おお……!」
役人たちの声がして、次にクロタルの顔が見えた。涙ぐんでいる。
「危ないところでした。ギリギリですが、助かりました。動けますか」
声を出そうとしたが出なかった。手も動かぬ。小刻みに首だけうなずいた。
「もう少し、飲んでください。不快かもしれませんが、我慢してください」
クロタルが役人よりもらった適度に冷ましたスープを口へ含み、桜葉へ……イェフカへ口移しで飲ませる。延髄のあたりを押さえ、顎を突き出すように動かすと喉が連動して、ゴクリと食堂の奥へ落ちた。
少しずつ、魔力炉が回りだす。
五回ほどそうしてもらうと、ようやく声が出た。
「あ、あ、あ……す、すみません、なんとか……話せます……」
見ると、仮設小屋のベッドの上だ。どうやって助かったのだろうか。ランタンが
「無理をしないでください」
そう云ってクロタルが今度はパンや肉の煮込みを口で租借し始めた。あれも口移しで飲まされるのか。桜葉は急激に今まで感じたことのない羞恥におそわれ、たまらず身を起こした。
「いや、もう自分で食べられます」
そう云って、貧血のようにがっくりと首が折れる。
役人が慌てて桜葉を支えて、有無を云わせずクロタルがイェフカの顔を両手で抑えつけ、唇へ自らの唇をおしあてると口中の流動食を流しこんだ。
「む……う……んぐ……」
桜葉、目を白黒させてそれを飲みこむ。すると、さすがに固形物は違う。たちまち魔力炉が通常の回転を取り戻してゆくのが分かった。
(くそっ、なんつうプレイだよ!)
どんな風俗でも味わったことのない体験に、桜葉め、動揺するほかはない。
そして、例の猛烈な食欲が自分をみるみる支配してゆくのが分かった。
あとはもう、いつもの倍……十五人前はあろうという役人たちが大量に用意したパンとスープと煮込みを、桜葉は二時間ほどで全て平らげてしまった。
さらに、大きな瓶へ並々と注がれてあった三日分の水も、半分以上を飲み干した。そこで、ぴたりと食欲が収まった。
「ごちそうさまでした」
桜葉は普通に声を出し、やっとクロタルが安堵で肩を落とす。
その何とも云えぬ安心に満ちたクロタルの表情を見やって、今度は異様にほっこりした気分になった。そしてそんな自分に気づき、桜葉は再び妙に恥ずかしくなった。
(もしかして、こんな嫁さんほしいのかなあ、おれ……)
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