第2章 3-2 ほぼ日本刀

 知られたどころで、まだこちらの人間には未知の武器を試作している段階では限界があるだろうが、桜葉はそう確信した。


 (いきなり態度を変えたのも、おれを油断させるためかもしれんですよ、これは)


 そうは云っても、もし本当に桜葉へ協力してくれているのだとしたら、その思いは裏切りに近い。


 また確たる証拠もなく、詰問する勇気も度胸も無い。

 (当面は、様子見か……)


 ますます状況に流されるだけだった転生前の会社を思い出し、クロタルとは裏腹に面白くない顔になる。


 「どうしました、気分でも?」

 「えっ!? いやっ……その」

 そこへ、またバストーラ工房より使いが来た。試作第二弾ができたという。

 (早いなあ)

 なにか、コツでも掴んだものか。


 さっそく使いの者にくっついて二人で行ってみると、工房ではバストーラや弟子たちがさらにドヤ顔で待っていた。そうとう自信があるようだ。


 「…………!」

 桜葉も眼をみはった。

 (これは……)


 試作第二弾は、三振りあった。どれも似たような長さ、反り、重ねで、聞きかじりのみで造ったにしては素直に見事だった。もちろん、純粋な日本刀ではない。完全に日本刀だ。が、こちらではそれで充分だった。桜葉が遣えればそれでよいのだから。


 (こりゃすげえ……よく作ったもんだ)


 なかごをもち、刀剣鑑賞のように構えて眼を近づけ、まじまじと見つめる。地肌も、かなり日本刀に近い。きずも無い。ビカビカだ。研ぎもすごい。日本の砥石に匹敵する石があるのだろうか。それとも、異なる物質の研ぐものがあるのか。こいつはまぎれもなく「ほぼ日本刀」と云えた。


 「すごいです」

 少し震えながら、桜葉が声をあげた。もし人間の身体だったら、感動でウルウルしていた。


 クロタルも、真剣な表情で後ろから見入っている。

 「どれを遣う?」

 桜葉は長い時間をかけて入念に三振りを持ち比べ、

 「これで」

 二振り目を差し出した。


 「ようし。次は指示通りにつかさやを造るぞ。鍔は、鉄の板を丸か四角で板状にするんだったな。残りの二つは、予備でとっておくからな」


 「お、お願いします」

 桜葉はにわかに興奮し、手も震えてきた。まさに武者震いだった。



 「いやあ、すごい。すごいです。まさか、あそこまで……」


 感嘆しきりで竜場まで戻り、稽古の続きをしようとする。クロタルの機嫌もにわかに良くなった。


 「そんなに凄いのですか」

 「あれなら、まずまず使えると思います」

 「あの刀を、どのように遣うのですか?」

 「えっ」


 ギョッとしてクロタルを見てしまった。クロタルも、意外な反応をされたというふうでちょっと身構えた。


 「な……なにか」

 「い、いいえ、その、どのようにと云われても、その、なんというか。説明の仕方が」


 「私も、ドラム候補でしたから、こう見えて剣技の腕前もまあまあなんですよ」

 「そうで……すか」


 ユズミへの情報漏洩もる事ながら、なによりこっちの人間に居合をどう説明しようか迷う。外国人にすら説明するのも苦労するのに。いくら日本ブームとはいえ、全く知らない人に説明するのはやはり難しい。いや、日本人にだって難しい。


 「まあ……その、そうですね、鞘を遣って攻撃するのです」

 「は!?」

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