第2章 3-1 試作刀選別

 研ぎもまあまあ良い。しかし、重ねが足りない。幅が薄かった。しかも反りすぎていた。これでは太刀だ。さらによく見ると疵が多い。鍛えが甘いのだ。不純物が抜けきれていない。これは使えない。


 二振り目は、反りも長さもちょうど良いと思われたがやはり疵が多い。しかも、中ほどに大きく裂け疵があった。これでは強度不足だ。実戦では使えない。


 三振り目は疵が少なくまあまあだったが、反りが無さ過ぎる。ほとんど直刀だ。居合をやっている人には反りの少ない刀を使う人もいるが、桜葉は抜きづらいと感じていた。


 四振り目はどういうわけか異様に重い。重ねすぎたのか。確かに厚い。

 と、なると五振り目が最も自分の使っていた刀に近かった。

 しかしどうしても疵が多い。稽古ならまだしも、本番でこれでは強度に不安が残る。


 「正直に云ってくれ。これで完成とは思ってない」

 バストーラがそう云うので、桜葉は素直に解説した。

 「よし分かった。次で完成させてやる」

 さらに気合を入れ、バストーラは弟子たちに指示を出した。

 桜葉は満足げに、工房の中の活気を見つめた。

 


 それから二週間ほど、桜葉はひたすらランスチャージと空中戦の訓練を行った。腕を組んで地上よりそれを根気よく見守っていたクロタルが、ついに太鼓判を押した。


 「素晴らしいです!」


 ガズ子より降り、乗竜台の階段を下りてきた桜葉を迎え、クロタルが真剣な表情でそう云った。さらに、直立不動に近いまま、と、傲慢と嫉妬から来る偏見をお許しください」


 「い、いいえ……」


 桜葉こそ、正直これほどできるとは、だ。さすが、魔力炉が異世界から選んだだけある、ということか。イェフカという身体の性能は元から良いのだから、あとは本当に相性とか、感覚の問題なのだろう。


 (死んじまった? スティーラには悪いが……良かったのか悪かったのか)

 それは桜葉には分からない。いや、誰にも分からない。


 (いまはとにかく、前に進むしかない……進むしか。それがスティーラの供養にもなる……かも)


 水を飲み、竜場の隅へ並んで座り、休憩する。ガズ子も水を飲ませに厩舎職員が連れて行った。


 「ドラゴン戦のみでは、おそらくアークタと同レベル。ランツーマの遠距離魔法と、ユズミの長弓には申し合いで感覚を掴んでください」


 「申し合い」


 「本番半月前ほどからは、四人で申し合いです。本気でやりつつも、手の内は隠してください」


 (なあ)


 手の内とは、本来は剣術用語である。刀の柄の握り方、刀の操作の仕方、そういうものの総称とでも云えばよいか。流派によっても異なるが、奥義、極意はもうその達人個人個人のものであり、固有のものである。なぜならば、その人の「手」は、結局のところその人のみの物であり、弟子門人と云えど「同じ手ではない」からだ。


 戦いにおいてその手の内を相手に教えない、知られないことはもう、当たり前のことであり、敵の手の内を知ることは絶対的に優位なことなのだ。


 それが転じて、商売などでも内心を教えない、真実や真の目的を知られないことを「手の内を教えない」「知られない」「見せない」等という。戦いやスポーツにあっては、戦術や技術を隠すことなどにも使われる。


 桜葉はチラッとクロタルの充実した横顔を見た。ランツーマの話によると、ユズミと同郷で友人であるという。


 (きっとおれの情報は、逐一ユズミに知られてると思っていい)

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