第2章 2-4 選ばれし……者

 「ドラムも日々進化して……強国は次々に新しいドラムを開発している。私たちは帝国標準型だけど、お金のある国は独自にドラムを開発して投入してる。イェフカ、君みたいに」


 「……けど、ルール……規定があるんでしょう?」

 「そりゃ、あるさ。なんでもかんでもってわけじゃない。戦争じゃないからね」

 そのルールがよく分からない。


 「ドラム製造に関しては、私たちが知るところじゃない。私たちの責任じゃないからね。主に魔力炉の出力だけど、現代の技術じゃ、これ以上の出力は人間の魂魄がもたないとされてるから、どちらかというと魔力変換効率や反応速度、躯体の強度に主眼が置かれている。だけど現実問題、魔力炉と躯体はもう現代の技術では限界なのさ。その中でも、イェフカ……君は、ドラム魔法工学会の異端とされていたスヴャトヴィト博士の画期的な意欲作だから……注目されているよ」


 「異端」


 「なんでも、魔力炉と魂魄には相性があって……最高の相性を求めることにより、高出力魔力炉の真の力を引き出すんだってよ」


 「相性」

 「あたいらにゃあ、チンプンカンプンだよ。関係ねえ」

 アークタがそう云って笑う。


 「関係なくはないさ。けど、どうしようもないもの事実。私たちは、ドラムを選べない。移植は一回こっきりの博打みたいなものだけど、博士の論理による新型設計の魔力炉は、自ら魂魄を選ぶとされている。魔力炉と魂魄の相性からドラムを強化しようとするなんて発想は、スヴャトヴィト式だけだよ」


 「スヴャトヴィト式」

 「その、選ばれた相手が……あんたってわけさ」

 「……えら……ばれ……た……」


 桜葉が固まってしまう。選ばれた? 異世界から? スティーラを押し退けて? どういうことなのか?


 「だから、自信持ってやりなよ。記憶なんざ、そのうち思い出すよ」

 アークタが云い放ち、煮込みの肉をスプーンで頬張った。


 「うまいなあ。あたいは、毎日こんな豪勢なメシが食えるだけでもドラムに入って良かったと思ってるんだ。生まれは、テバレスの貧民街だからね」


 「テバレス」


 「七選帝侯国のひとつ。私は、ネア侯国出身なの。テツルギン出身は、貴女だけ」

 「七……あの、この帝国って、どういう……」

 アークタとランツーマが顔を見合わせる。


 「悪いなあ、あたい、よく分かんないんだ。ほら、字も読めないし、テバレスとテツルギンしか知らないんだ」


 「私も、選帝侯国以外の国はよく分からない。とにかく帝国は広くて……帝都も行ったことない。代表選手になれば、行けると思うけど」


 「はあ……」


 自分で勉強するしかなさそうだ。字すら日本語に見えるのだったら、本くらい読めるだろう。


 話をハイセナキスへ戻した。


 「ハイセナキスのル……競技規定は、あれですか……その、とにかく相手のその、旗をゼロにすればいい?」


 「その通りだよ。単純だろ?」

 アークタが屈託なく笑って片目をつむった。

 「禁止事項は?」


 「特にない。魔力が自動的に色々と制御してくれるから。とにかく真剣に、精一杯やればいいだけだ。とにかく我武者羅がむしゃらに、相手を攻撃すればいいんだ」


 そのとき、一瞬だけアークタが見せた眼光の鋭さは、桜葉の動きを止めるのに充分だった。義眼なのに、あんな光を放つのか……桜葉は口の中のパンを噛むのも忘れ、アークタを凝視した。武道であれば師範クラスの光は持っている。貧民街で生き抜いてきた実績のある眼だ。人の一人二人は殺しているであろう、ギャングの眼だ。


 「あ、でも、故意にドラゴンを狙うのは禁止。もっとも、あんな槍程度じゃドラゴンはびくともしないけど、なにせ稀少だから、何かあったら大変。特にこのテツルギンのガズンドラゴンは、ね」


 ランツーマの言葉が無かったら、しばし動けなかったほどだった。

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